ラノベ業界の再興に必要なものは「出版社の自信」? 「ダンガン文庫」率いるBookBase社長・近藤雅斗インタビュー

「ダンガン文庫」が面白い。エンターテインメント系出版社の少ない大阪市を拠点に、ライトノベルを電子書籍として刊行するという異例づくしの体制ながら人気作品を輩出。著者に入る印税を高めに設定して作家を守りながら大きくなろうとしている点も特色だ。3月からはいよいよ紙での刊行にも乗り出した。出版文化の停滞が言われる中でどうして「ダンガン文庫」は走り続けることができるのか? 発行元の株式会社BookBaseを率い「ダンガン文庫」編集長を務め「オタクペンギン(社長)」のニックネームで発信を続ける近藤雅斗社長に聞いた。
ライトノベル業界はちょっとヤバい?

――2024年1月に電子書籍専門のライトノベルレーベル「ダンガン文庫」を立ち上げました。大手も含めて実に多くの出版社が参入しているライトノベル市場に挑戦した理由は?
近藤雅斗(以下、近藤):2014、5年くらいから、ライトノベルの文庫(書籍)に元気がなくなってきたように感じていたんです。それで、自分が好きだったライトノベルを書こうと思ったんですが、全然書けなくて。それで、書き方だったり作家さんってどのようにして食べているんだろうということについて調べると、この業界ちょっとヤバくないかと感じたんです。このままいくと食べられなくなる作家さんが大量に出て来るんだろうということが見えて、僕自身が作家になるのは無理でもビジネスとして何かできると思ったことがきっかけです。
――ライトノベル自体はウェブ発のヒット作が幾つも出てアニメ化もされて、大変に賑わっているように見えますが、作家にとっては厳しい状況にあるということですか。
近藤:よく言われることですが、ライトノベルって作家買いが起こりづらい領域なんです。アニメになってヒットしても、数年後にシリーズが終わった後で同じ作家さんがヒット作を出し続けられるのかというと難しい。作家がブランド化しないんです。ブランドになるのはあくまでも作品でありレーベルがメインなんですね。ウェブ小説の方も、書籍化して当たればシリーズ継続となりますが、当たらなければまたウェブからといった感じで、作家さんが継続的に食べていく仕組みがなくなってしまっているような状況でした。
――出版社がヒット作を出し続けられても、一人ひとりの作家はそうではないと。
近藤:出版業界側にも事情はありますが、作家さんの側からするとこれで専業になるのは無理です。このままでは一種の職人として技術を高め、筆の力を磨いていくような作家さんが減ってしまうのではないかと思いました。僕自身、緻密に錬られた作品だとかシリアスな作品が割と好きだったこともあって、そうした作品を生み出せる作家さんが減ってしまうのは嫌だ、何とかしてあげたいと思ってレーベルを立ち上げました。
――大手も含めた出版社ができないことに挑む。リスクは感じなかったのですか?
近藤:僕の中ではあまりリスクを取っている気はしないんです。少し前まではライトノベルはライトノベルとして単体で存在しているところがありました。今は漫画であったりアニメであったりといろいろなチャネルから入って来られるようになっています。どこでヒットするか次第なんです。ライトノベル自体の市場規模が落ちていても、作品自体の可能性が悪いわけではない。ライトノベルとして出した以上、そこで結果が出ないと次に行けないみたいな状態がありますが本当はそうではない、作品としての可能性というのと売れないというのはイコールではないと思っています。
――将来の可能性を信じて出し続けるということですね。
近藤:売れないということだけをネガティブに捉えるのではなく、将来を考えどう売っていくかを考えながら出版社が自分たちの目を信じていけば良いんじゃないかということです。
編集部とか出版社側がもっと自信を持った方がいいんですよ。市場でちょっと結果出なかったからダメですではなくて、それは作品が悪いんじゃなく例えば宣伝が悪いんじゃないか、届いてないんじゃないかと考える。いろいろなカテゴリがあるのだから、そこの模索をもうちょっとしていく。作品数でどうにかしようではなくて、ひとつひとつの作品をちゃんと当てに行く。そういったことを努力し続ければ、多分まだやれるだろうなとはすごく思っていて、それをやろうとしたということです。こうした考え方が成り立ったのは、「ダンガン文庫」が電子書籍を最初の主体としたということも大きいですね。
――紙が主体の出版との違いは?
近藤:電子書籍というのは特殊なんです。紙の本の場合は、発売した日がやはり一番売れるんですよ。その日が一番ドンと売れて、そこから3日間から1週間ぐらいかけてピークとして下がっていって、そこで売上が出ないともうダメだってことになってしまうんです。本屋さんからも返本されてしまうので出版社側としてはリカバリーがしづらいんですが、これが電子書籍の場合だと、1巻がそこそこでも2巻を出した時に1巻をセールにするとか、他タイトルとの横断フェアに出すと言った感じで、出版社の側で購買動機のタイミングを握れるんです。1巻はそれほど売れなくても、2巻3巻と出し続けていって物語として面白くなるのなら、そこまで繋げていけば良いのだというやりかたができるのも電子書籍の強みです。
面白い作品を作り届けるためのポリシー
――ただネット媒体全般に言えることですが、電子書籍は読者にリーチするまでが大変です。
近藤:そこは僕たちの会社でもまだまだ課題があることですね。ただ会社のフェーズとしては、ようやく制作がしっかりと機能していけるようになって、ライトノベルと漫画を継続的に出していけるようになったので、これからどんどんとリーチしていきたいと考えています。今はSNSを使って僕とかが主体になって前に出るようなやり方で認知を広げていっています。
――「オタクペンギン(社長)」ですね。とてもキャラが立ってライトノベルに興味がある人なら見てしまいます。

近藤:キャラを演じている訳ではなくて普段から思っていることが大半ですが、ライトノベルの中でそういう変なことをやろうとする威勢のいいのが出てきたなって思ってもらわないと、何の興味も引けないという状態だったこともあって、最初のころは尖ったことも言っていました。ライトノベルにおける反トレンドみたいなことを掲げたりして、そのおかげでいろんなところから嫌われたかもしれませんが、そういう目立ち方をしてでもやらないと知ってもらえませんでしたから。
――ただ悪目立ちをするだけではなく、作家と作品はしっかり並べてみせました。
近藤:榊一郎さんを筆頭にかなり著名な作家さんたちに参加していただけました。なんでもない奴がいきなりやろうとすると難しいというところがあったので、少しずづつ縁を繋いでいただいたりしながら、誰もが参加しやすいブランド作りを頑張りました。
――出版社で働いたとか編集の仕事をしたといった経験はなかったのですね。それで榊さんをはじめ作家の方々とはどのように知り合っていったのですか。
近藤:榊さんとは以前からSNSでちょこちょこ絡ませていただいていて、なんなら1回呑みに行きませんかといったノリの時があってお会いできたんです。お目にかかった時、榊さんの方から今の出版社ではできない企画がたくさんあって、それをボツにするのももったいないからよかったら出してくれないかみたいな話をいただいたんです。それならぜひとなって、榊さんのを出すのならいっそレーベルにしてしまおうとなったのが「ダンガン文庫」の始まりです。そこから榊さんに紹介していただいたり、僕が昔から読んでいる作家さんに声をかけたりして集めました。
――声をかける基準のようなものはあったのですか?
近藤:面白いかどうかだけです。創刊当時の編集部は僕しか人がいなくて、僕が一緒にやりたいなと思える人ベースで集めました。あとは、「ダンガン文庫」というレーベル自体がなるべく尖っていくといったところを重視しているのもあって、尖っていたりエグみが出せるような作品をしっかり練って作っていける作風の方々に声をかけたりしましたね。

――ラインナップを見ると1990年代後半から2000年代あたりのライトノベル作品に近い雰囲気の作品が多いように思います。
近藤:よく言われます(笑)。別に昔に戻したいという意識はないんですが、それこそ僕も含めた編集部員が、電撃文庫さんとかの黄金時代と呼ばれた時期の作品に触れてハマった人間なので、そういうものに影響されて作っている系譜はあります。『グリムコネクト』の十利ハレさんも『ブルーロア・プラネット』のうつみいっ筆さんも僕と世代的には同じくらいなので、同じ作品を通ってきています。ウェブっぽくないところが僕らのトレンドですね。みんなが同じことをやると同質性が高まってしまって、作家さんがそこ以外で勝負したいと言っても選択肢がなくなってしまいます。それは読者さんの選択肢も同じです。そうした選択肢をどう広げるかといった時に、他がやっているならあえて反対をいくべきだよねというのが僕らの考えです。
――ウェブとにらめっこして人気出そうな作品をピックアップしている感じではないですね。
近藤:全然ないですね。基本的にウェブからの拾い上げというのはやっていなくて、打ち切りになってしまったとか諸事情があって出せなかったものをリブートして刊行するなどしています。
あと、僕たちはほかのレーベルではあまりやっていないくらい編集に時間をかけるんです。1つの作品を出すのに1年以上かけることもあります。根本からいじって一文一文、一言一句のレベルで作家さんとこうした方が良いんじゃないですかと話し合っていきます。榊さんからは「昔の編集の感じに近いよね」ということはよく言われます。今はあまり一緒に錬るようなことはしない編集さんもいるそうなので、そこを面白がって来ていただける方もいますね。
――電子でありながらしっかりとイラストも付けています。
近藤:ライトノベルですから。イラストレーターさんは僕中心に各編集が普段からアンテナを張って、いいなと思った方をどんどんリストアップしています。今だと2000人くらいのリストがあって、それぞれこういうジャンルが良さそうというのを分けておいてお願いする時に選ぶ感じです。イラストレーターさんが原作をちゃんと面白いと思ってもらえるかどうかでクオリティにだいぶ差が出るので、そこをどう一致させるのかをオファーする時に大切にしています。
――作家のために立ち上げた出版社ということで、印税率も非常に条件が良いと聞いています。
近藤:やはり仕組みを変えていかないことには新しい人って生まれませんから。ライトノベルがもっとホットになるためには、「これだけ稼げる」みたいなシンボリックなことが必要だろうと考えて頑張りました。ただ、印税率が高くてもトータルの部数が売れない限り天井は限られてしまうので、前払い印税のようなことも行っています。電子書籍の印税は基本的に実売ベースになりますが、始めにまとまった支払いをしておいて、そこから減損させる形で実売の印税を立てていって、作家さんの生活を安定させようとしています。仕事という意識をもってやっていただく意味もあります。あと、いわゆるIP化ということについても早くから取り組んで来ました。
――印税以外の著作権収入を作ってあげるということですね。
近藤:本以外での売上を何かしら立てていくみたいなイメージで、ASMRボイスドラマのような音声コンテンツをやったり、グッズを早めに出したりとかしています。そういうのを作っていって、いろいろな面で作品に触れる方法を増やしていきながら、全部の売上の何パーセントかはちゃんと原作者に入るような形にしています。集合体として、本が仮にダメになったとしても、他で補填ができるようにして、なるべく専業で執筆活動ができる人を増やしていけるようにしないといけないと思っています。
紙書籍の刊行、コミカライズの開始、そしてメディアミックスに向けて
――3月からいよいよ紙の本を刊行し始めました。
近藤:もっと「ダンガン文庫」のことを知ってもらうための展開を踏まえたところがあります。厳しい戦いだとは思っていますが、やはりライトノベルは10代とか若い人たちに向けていかなければいけないということが文化としてあります。電子でやっているだけでは、ストアを利用している人以外にはなかなか波及しないんですね。未だに本というメディアは書店が担っているところがあって、そこに乗せていかなければメディアとしてエントリーできない、知ってもらえないという問題があって紙での出版に踏み切りました。
――電子書籍オンリーでは書評として取り上げづらいところもありますから。実際に刊行して手応えはいかがでしたか?
近藤:取次にも書店にもポジティブに受け止めていただけました。作家さんも含めてやはり本というのが出版業界にとってひとつの象徴なのかもしれません。ここでめちゃくちゃ儲かるということはなくても、作品が広がるという意味でやっておくべきことだと思います。ただ、僕らは紙の本でも数を出すことを目標に置くのではなく、1作1作をどのように売っていくかっていうところが大事だと思っているので、電子で出したものの中で自信がある作品、評価されている作品を出して、そこに宣伝も含めてしっかりお金をかけて認知してもらおうとしています。そうしたメッセージを出していたこともあって、書店でもかなりのところで面を取らせていただけました。
――多くの書店で『グリムコネクト』や『ブルーロア・プラネット』が面展開されていました。
近藤:編集部も入れて会社全体で10人くらいしか人がいませんが、全員で1ヵ月くらいかけて600店舗以上の書店を回りました。広くチェーン展開をしている書店の本部とも個別にお話をさせていただきましたが、電子で売れているというところも評価していただけたようです。やはり紙の本でしか買いたくない、読みたくないという層もまだまだいますし、そこにリーチしていくことができるようになったと思います。楽勝だと言うほど売れている訳ではありませんが、おかげさまで発売後すぐ重版するぐらいには書店から注文いただけました。
――コミックも同時に出しました。こちらの手応えは?
近藤:初速の数字はすごく良かったです。コミックでもこだわっているのはひとつひとつの作品のクオリティという部分です。『グリムコネクト』に関しては芥子カズさんに描いていただいていています。連載経験はない新人の方でしたが、ずば抜けた作画力があって、ネームとかも含めて小説をコミカライズに落とし込むのがものすごくうまい方で、自信持って出せるクオリティのものになりました。
すこし前までは「ダンガン文庫」というとやはりライトノベルしかないということで手を出していない人もいたので、そこに漫画という切り口が加わってたので、ここから巻数重ねていきながらしっかりと周知していければ、どこかでブレイクスルーが起こることもありえると思っています。
――それこそアニメ化のような展開も生まれそうですね。
近藤:具体的に決まっている話はありませんが、興味は持っていただけているようで、複数のところからお声がけもいただいています。アニメ業界とかからすると今、原作がなかったり取れなかったりという状況が続いているので、そこに新しく原作を出せるところが出てきたというバリューは大きいと思っています。紙の本を出したということも、今まで少しインディーズっぽくやっていたところがメジャーデビューして来たような見え方になって、声をかけやすくなったのではという気もしています。
――1人の編集者が出したいと思えば採択されるような作品を公募する「ダンガンラボ」を始めました。
近藤:「ダンガン文庫」がいい意味でも悪い意味でもブランドっぽくなりつつあって、その中でやれることとやれないことがあるようになってきたんです。そこで出すのが難しい作品が出てしまうのが弱みになると思って立ち上げました。編集者を育てなくてはいけない立場でもあるので、ある程度低い敷居の中で作家も編集も経験値を詰めるような環境が、まさに「実験室」が必要だったということもあります。3月で締め切りましたが、数作くらいはそこから(電子)出版できそうな感じです。これから編集者が増えていけば、かけ算のように作品数も増えていくので、作品のバリエーションを増やしながら経験値を持っている人も増やしていきたいと思っています。
――着々と施策を繰り出してきていますが、今後の経営や出版の見通しは?
近藤:アニメ化についてはおかげさまで動きそうな気配があります。あと、最近株式を上場されたオーバーラップホールディングスやTOブックスの決算を見ると漫画が大きな売上を占めているので、うちも頑張っていきたいですね。とはいえ、漫画が売れたりアニメになったりするのも、結局は原作がどれだけ面白いかにかかっています。良いイラストレーターさんを起用できるとか、良い漫画家さんに来ていただけるといったことも、原作がパワーを持っているから成り立つものです。アニメにするにも漫画にするにもエネルギーがめちゃくちゃいりますから、それをしてでもやりたいと思わせるぐらいの作品の力が必要です。今後はそこをどのように作っていくかにかかっています。認知の世界になってくるとも思っているので、ようやく書店にも出ていきましたし、ここからどのように認知してもらうか、SNSでも何でも取り組んでいきたいと思っています。
――いつかはオーバーラップやTOブックスのようなIPO(株式公開)も。
近藤:基本的にはそこを目指す形ですね。政府がエンターテインメント市場を20兆円にすると言っていて、それはアニメやゲームの話なんですが、そのアニメの原作はどこから取るのかと言った時に、ライトノベルに強みがあると僕は思っています。そこでライトノベルをアニメになってもちゃんとヒットできるぐらいの強度で、アニメ化されるまでの5年くらいのスパンで作り続けられるところまでいきたいですね。
――ありがとうございました。






























