【漫画】死神が魂の代わりに要求したものは? 余命わずかの少年の一生を描くSNS漫画のラストが泣ける

大病の少年を救ったのは死神だった――。九死に一生を得る場面から始まる奇妙な交流を描いた漫画『夏になったらやって来る!!死神のクワガタのお兄ちゃん』がXで約7000のいいねを集めている。
作者は医療現場で働いた過去を持つとらじろうさん(@torazirou7)。「治らない病気も、救えない命も漫画なら救える」という切実な想いから生まれた、本作の制作について振り返ってもらった。(小池直也)
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――約7000のいいねが集まっていますが、ご自身としてはいかがですか?
とらじろう:最初はしんみりとした雰囲気ですが、読者からは「重い話かと思ったら勢いがすごかった」「ツッコミが追いつかない!」などの反応が多く寄せられました。
辛い話と思ったらその斜め上を行く話だった、というギャップに心を動かされた方が多かったのだと思います。
――本作の着想について教えてください。あとがきにはご自身が医療従事者だったことも書かれていました。
とらじろう:もともと私は医療従事者で、長年看護助手として多くの患者さんと接してきました。「猫の世話がしたい」や「家族とご飯を食べたい」、「子ども達と一緒に暮らしたい」といった私たちが普段している当たり前のことが、病室ではどれほど大きく切実なものか。
それを知る度に「もし自分だったら?」「この人たちをどうにか救えないか」とずっと思っていました。主人公・友也も本来なら病室という小さな世界で一生を終える運命の子。そこに突然、救いの手が差し伸べられて人生を謳歌していく。治らない病気も、救えない命も漫画なら救える。その想いを具現化した作品です。
――心臓の病気を取り上げたのはなぜでしょう?
とらじろう:題材にしたのは「拡張型心筋症」という心臓病です。小さな子どもが心臓に太い管を通され、寝返りもできないまま移植を待ち続ける。その現実を知ったとき、胸が締めつけられました。
主人公は未熟児で生まれ、双子の兄を同じ病気で亡くしています。そんな彼の前に現れるのが、クワガタ好きの死神ザンルークなんですね。
――クワガタは物語の鍵になりますね。
とらじろう:クワガタは2人をつなぐ象徴であり、命と死の狭間で生きる希望の存在でもあります。そして物語の核心は「死が終わりではなく、始まりの世界である」ということ。
死ぬことを恐れていた少年が“死ぬのが楽しみ”と言えるほど人生をまっとうするという、心の変化を描きたかったんです。
――本作を描く際に意識したことや狙いなどはありましたか。
とらじろう:色々な部分で伏線となる描写を入れたことです。例えば本編で「友也が双子だ」とは一言も説明していませんが、1コマ目に赤ちゃんの遺体があったり、会話内で「もしかして……?」と読者が思えるような仕掛けを考えながら描きました。
――作画面でこだわった点などは?
とらじろう:本作は4コマでデフォルメのイラストで描いてますが最後は全てリアル描写になります。ラストの5ページは全て写実的に描き人生が終わりへ向かう過程を静かに、美しく見せたかったのです。
蝶は死者、向日葵は生者を象徴し、変わらない存在と移ろう命の対比を表しています。漫画を読んでいるというより、ひとりの人間の人生を見届けているような気持ちで描きました。
――「あの世とこの世の話を描く」Xのプロフィールも気になりました。
とらじろう:病院での経験や自身が適応障害・鬱を経験したこともあり、「死」について深く考える時間が多くありました。子どもの頃から妄想癖があり、自分の世界に逃げ込むことがありましたが、その世界が今描いている「あの世」の世界。頭の中に昔からいた登場人物たちを今ようやく形にできている気がします。
――とらじろうさんにとって漫画とはどんなものですか。
とらじろう:漫画は「希望」と「期待」が詰まった、奇跡のような媒体だと思っています。ハッピーエンドでなくても、心に残る作品であれば、その人の人生の片隅で生き続ける。
そして、ふとした瞬間に「あの時の漫画…そうか、あれはこういうことを伝えたかったのか」と思い出してもらえるような、そんな作品を描きたいです。
――次回作なども含めて今後の展望を教えてください。
とらじろう:本作には続きがあります。『死神育文書』では、あの世に行った友也のその後を描く予定です。どうぞお楽しみに。
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