津田健次郎、糸井重里、野木亜紀子……漫画編集者・林士平が考える、第一線で活躍する人の共通点とは?


『SPY×FAMILY』や『チェンソーマン』など、社会現象を巻き起こすヒット作を次々と世に送り出してきた漫画編集者・林士平。彼がパーソナリティを務めるPodcast番組『林士平のイナズマフラッシュ』が、待望の書籍化を果たした。
書籍『9人の「超個性」プロの新仕事論』(双葉社)は、各界の第一線で活躍するゲストと林による熱量の高い対談を収録。クリエイターのみならず、すべてのビジネスパーソンに刺さる「仕事観」や「人生の転機」が語られている。
今回は、時代を作るヒットメーカーたちの「思考法」や「仕事術」を間近で受け取ってきた林に、対談を振り返ってもらった。(浜瀬将樹)
番組初ゲストは津田健次郎(声優・俳優)
ーー書籍化の話が来たときの心境からお聞かせください。

林士平(以下、林):実は、これまで僕個人の書籍のお話はすべてお断りしていたんです。でも『イナズマフラッシュ』は、ラジオプロデューサーの石井玄さんのチームと一緒に作っている。本を出すことによって、このチームが喜んでくれたらうれしいし、少しでも箔がつけばと思ってお受けしたので、僕の本というよりも「番組本」の印象ですね。
ーー書籍について、ご自身で希望を出されたところは?
林:特にありません。Podcastが書籍化された本を読んだことがないので、何が適切なのか分からない。そのあたりはプロの編集者さんに任せようと思いました。僕自身は恥ずかしいので、じっくりとは読んでおらず、アシスタントに「誤解を招きそうな表現や不適切な箇所があったら削ってね」とお願いしたくらいです。
ーー早速ですが、ゲストとの対談を振り返っていただきます。津田さんとお話をしてみていかがでしたか?
林:現場で何度もお会いしているのですが、相変わらず丁寧な方でしたし、ゆっくり話せてよかったです。声優さんってラジオやPodcastもされているので、話し慣れているじゃないですか。津田さんとの対談が番組の初回収録だったのもあって、そのリズムやテンポを学ぼうとも思っていました。ただ、あの域に達するのは難しい。「自分のできる範囲でやろう」と思いましたね。
ーー番組のジングルも収録されたそうですね。
林:さまざまなパターンにも対応し、声色やテンションも変えてやってくださったのですが、圧倒されましたね。プロの仕事をそばで見られていい経験になりました。
ーー津田さんゲスト回から番組がスタートし、1年半以上が経過しています。ご自身で成長は感じられていますか?
林:当時ほど棒読みではないのかな(笑)。今は台本を読んでいたとしても、多少は自分の言葉っぽく話せているのかな、と思います。慣れもあると思いますけどね。
糸井重里(ほぼ日代表)は「朝ドラになる」
ーーなぜ、糸井さんと対談したいと思ったのでしょうか。
林:「ほぼ日」にお呼ばれしたのが初対面だったのですが、そのときは僕のお話しかできなかったんです。糸井さんのお話もお聞きしたかったので、今回オファーをさせていただきました。糸井さんの場合は、すでに歴史が物語っているように、すごい人生じゃないですか。番組のなかでも「朝ドラになる」と言いましたが、本当にそうなりそうですよね(笑)。
ーーそこまで人を惹きつける糸井さんの魅力は、どんなところにあるのでしょうか。
林:「自然体で常に面白がろうとする生き方」だと思います。糸井さんって、「面白いからこれをやりたい」という想いが連鎖していて、ずっと楽しそうにお仕事をされていますよね。そのスタンスでいらっしゃるからこそ、客観的な視点が面白く、話していると気づきがある。「そりゃいろいろな仕事の依頼が来るよな」と思います。
ーー「常に面白がる生き方」は、林さんも目指しているところですか?
林:「うまくできたらいいな」とは思いますが、糸井さんほど自然体は無理です。僕は僕なりのやり方でやるしかないな、と思っています。

野木亜紀子(脚本家)の初対面での印象は?
ーー続いて、野木さんとお話をしてみていかがでしたか?
林:本書に登場される方々のなかで、野木さんだけが初対面でした。ぜひお話を聞いてみたかったので、対談ができてうれしかったです。いざお会いすると、エネルギーがすごく「めちゃくちゃ本を書いているんだろうな」と感じました。力強い脚本を書くのはもちろん、プロデューサーの視点もお持ちだからこそ、視聴率もとれる「戦えるドラマ」を量産できるんだな、と思いましたね。
ーー脚本の世界と漫画の世界で、何か共通点は感じましたか?
林:漫画の場合は想像すればどんなことでも描けますが、脚本の場合は制限があると思うんです。たとえば、日本のドラマでいきなり海外ロケに行くなんてなかなか難しいですよね。ただ、描ける世界に制限があるからこそ、生まれるものがある。野木さんは、その枠のなかでもきちんと面白いものが作れる方という印象です。
ーーこの対談を経て、なにか感じたことはありましたか?
林:野木さんも、自分が描きたいものを世の中に届けるために、いろいろと戦っているのだと思いました。だからこそ、僕も丁寧に自分の仕事と向き合わなきゃいけないなと思いましたね。
古い友人でもあった風間俊介(俳優)
ーー風間さんとは付き合いが長いそうですね。
林:対談したなかで一番古い友人です。最近は食事するチャンスがなかったのですが、仕事にすれば強制的に2時間も話せるのでお招きしました。相変わらず口数の多い男で、楽しかったです(笑)。
ーープライベートも変わらない方なんですか?
林:ほとんど変わらないですね。一緒に飲みにいくときには、ここでは話せないようなことも話しているんですよ(笑)。でも、番組ではプライベートと同じテンションながらも、適切で楽しい話を広げてくれました。
ーー普段話さないようなことも話せたんですね。
林:そうですね。彼が「どのようにして役者になったのか」は聞いたことがなかったので面白かったです。もし次回があるなら、今度は飲みながら収録しても楽しそうだなと思いました。
ーー友人の風間さんのどんなところに魅力を感じていますか?
林:泰然としているところです。どんな状況でも焦っているところを見たことがないし、生放送でも異常に対応力がある。彼って若い頃からずっとあんな感じなんですよ。不思議ですよね。
佐野亜裕美(ドラマプロデューサー)の超かっこいい生き方
ーーもともと佐野さんとはどんな接点があったんですか?
林:年に数回、各局でドラマを作っている同年代の方々と飲む機会があって、そこで定期的にお会いしていました。
ーーお話を聞いてみていかがでしたか?
林:ドラマプロデューサーの仕事は、関わる人やものが多く、マルチタスクなので「僕にはできないかも」と思う仕事ですね。そのなかでも、佐野さんは特にパワフル。TBSからカンテレに移籍されて、作りたいものを作り、仕事で実力を証明されているので、超かっこいい生き方をしているなと思いました。
ーー本書にて「年齢的にも転換期に差し掛かっている」という話がありました。林さん自身も、編集者として先生と接する際、変化を感じることもあるのでしょうか?
林:年下の作家さんが増えてきているので、変わらなきゃいけないのかもしれないですけど、年齢を意識して打ち合わせはしていないんです。「フラットで対等に」とは思いつつも、相手がそう思えないだろうから、気を遣ってやるしかないなと。だからこそ「緊張や遠慮をする必要はないですよ」と言い続けるしかないなと思っています。

山田兼司(映画プロデューサー)を観察して気付いた「陽の力」
ーー山田さんとの対談はいかがでしたか?
林:山田さんに初めてお会いしたのが東宝在職時で、その前職のテレビ朝日時代の話を知らなかったんですよ。だから「そんなバックグラウンドがあって今があるのか」と興味深かったです。現在は独立をされたので、会社を立ち上げた僕と環境が似ている。定期的に情報交換をしたいです。
ーー山田さんと話していると、得られることも多そうですね。
林:気遣いや準備などが非常にうまい方だと思うので、もっと吸収したいと思いました。先日、「日本アカデミー賞」の控室でお見かけしたのですが、どんな振る舞いをしているのか、ずっと観察していたんです(笑)。まんべんなくいろいろな方と楽しそうに話をしていて、山田さんの持つ「陽の力」がチームを作っているんだなと感じました。
ーー本書を読むと、山田さんはテレ朝時代に行動を起こして、ご自身のやりたい仕事を掴んでいった印象を受けました。林さんも行動は大事だと思いますか?
林:「行動すると必ず価値が生まれる」というのは暴論ですし、一方で「よく考えて行動しよう」と思って何十年も考えていたら人生が終わっちゃう。その人のステータスによるんじゃないですかね。ただ、テレ朝時代の山田さんにおいては、それが正解だったのかなと思います。
蓮見翔(ダウ90000)は「雑談が番組になる人」
ーー蓮見さんだけ一回り以上年下の対談相手でした。お話ししてみていかがでしたか?
林:独特な着眼点で話をドライブさせていくので、すごく勉強になりましたね。あの目線でものを見ているからネタがいっぱい作れるのかなと思うし、ツッコミも話を拾っていく感じもすごかった。何を話しても面白くしてくれる安心感があるので、「雑談が番組になる人だな」と思いました。
ーーだからテレビでも重宝されているんですね。
林:そうだと思います。若い頃にバナナマンさんと月1で連載をやっていたことがあるのですが、裏でもラジオのようにトークを繰り広げていたんですよ。それは僕に対するサービスとかではなく、彼らの日常だった。いわゆる番組にたくさん出ている方々って、業界で生き抜けるよう最適化されていくのかな、と思いました。
ーー最後には、蓮見さんと「雑誌を作りたい」という話で盛り上がっていましたね。
林:夢物語で話していましたが、「コントのように漫画を作ったらどうなるのか」みたいな企画はやってもいいのかなと思います。ただお忙しいと思うので、今はとにかく応援したい。先日の舞台も面白かったですし、また見に行きたいですね。
佐久間宣行(テレビプロデューサー)は「エネルギーの塊」
ーー佐久間さんとお話をしてみてどんな印象を受けましたか?
林:佐久間さんとはイベントでしかお会いできず、食事をご一緒する機会もなかったので、今回の対談で初めてゆっくりお話ができました。ずっとエンターテインメントを見て作っている方で、「エネルギーの塊だな」という印象を受けましたね。
ーー「佐久間さんはインプットがすごい」と聞きますよね。
林:好きなことだからきっと苦ではないんでしょうね。多忙なスケジュールでも、時間の使い方や予定の組み方が上手な分、インプットもうまくできるんだと思います。
ーー林さん自身はどうされているんですか?
林:僕もインプットは好きなのですが、働きすぎてその暇がないので困っていて……。どこかでリセットしないとな、とは思っています。今は「仕事量を減らすことで得られるものを増やしたい」という状況ですね。
ーー佐久間さんと対談したことで、「仕事をするうえで大事なこと」も見えてきたのでしょうか。
林:そうですね。「エネルギッシュに働きながらも、丁寧にしっかり積み上げること」は、佐久間さんはもちろん、皆さんにも共通しているところだと思います。

石井玄(ラジオプロデューサー)と話す回が一番素?
ーー本書には、番組の企画者・石井さんとの完全書き下ろし対談も収録されています。
林:石井さんとは、収録の前後で雑談をしたり、番組内で話す回があったりするので、どんどん話しやすくなっている印象です。皆さんと同様、石井さんも楽しそうに仕事をしているのですが、超働いているので、よく「そのうち僕の現場に来なくなるんじゃないですか」とは言っていますね(笑)。
ーー対談を読んでいて、受け手としての林さんも素敵だなと思いました。番組ホスト役として、何か気にしていることはありますか?
林:まったく気にしていないですね。普通に会話を楽しんでいるだけですし、聞きたいことを聞いているだけです。そのなかでも、おそらく石井さんと話している回が一番素に近い気がします……気を遣わなくていいから(笑)。
『イナズマフラッシュ』の今後
ーー今後お話を聞いてみたい人は?
林:大企業の社長、プロ雀士、プロゲーマーなど、各業界のトッププレーヤーに話を聞いてみたいですね。自分の知らない世界だけど、盛り上がっているジャンルで元気にやっている人って、絶対に話が面白いと思うんですよ。
ーーリスナーさんも、今後の番組の発展を期待していると思います。
林:「お役に立てれば幸いです」くらいのイメージです。でも、役に立つことを約束したくはない。だって、役に立たないトークもしたいじゃないですか(笑)。

■書誌情報
『9人の「超個性」プロの新仕事論』
著者:林士平
価格:1,980円(税込)
発売日:2026年3月30日
出版社:双葉社























