comicoのBLはなぜ強い? 研究会に漫画賞……編集部が語る、ヒット作ができるまで

漫画アプリ「comico」が、BLジャンルで存在感を強めている。2013年のサービス開始以来、日本で早くからフルカラーの縦スクロール漫画を手がけてきた同アプリは、ロマンスファンタジーや現代ドラマを主力としながら、BLでも『変態ストーカーに狙われてます』『運命の番じゃないなら今夜だけ』といったヒット作を送り出してきた。近年はこれらの作品が「BLアワード(ちるちる主催)」のwebtoon部門で入賞するなど、この領域を着実に広げつつあり、その作品づくりに注目が集まっている。
今回は、comico編集部 編集長かつ『運命の番じゃないなら今夜だけ』担当編集のたかしろ氏、『変態ストーカーに狙われてます』担当編集のさの氏、「comicoタテカラー漫画賞2024」オールジャンル部門のグランプリ受賞者・春町つきさんの担当編集であるまきあら氏の3名に、BL×WEBTOONの制作の裏側を聞いた。
読書環境が変わる中、必要な両立
──まずは、アプリ「comico」について簡単に教えてください。
たかしろ:comicoは、日本で初めてフルカラーの縦スクロール漫画(今でいうWEBTOON)を制作・配信したアプリです。サービス開始が2013年10月なので、今年で13年目になります。読者層は7割ほどが女性で、メインジャンルはロマンスファンタジーです。次に人気なのが、不倫・復讐系の現代ドラマ、そしてBLです。
現在、comico編集部ではその3ジャンルを中心に制作しているのですが、例えばロマンスファンタジーであれば洋風ものだけではなく和風ものにも力を入れたり、『和歌ちゃんは今日もあざとい』のような、どちらかというと男性向けなラブコメも企画中だったりと、少しずつジャンルの幅を広げているところです。
──作品作りの前提として、WEBTOONの1話あたりの情報量やコマ数は、どのように設計されているのでしょうか。
たかしろ:comico編集部で制作するWEBTOONは基本的に週刊連載で、コマ数は45~65コマ前後(見開き換算だと10~12ページ程度)を目安にしています。短い尺の中で話ごとの起承転結を作らなければならないので、場面転換の数や、ヒキ(話の最後のシーン)をどうするかなど、情報量はかなり意識しています。
序盤の第1~3話は、キャラ・世界観の説明や、読者を掴むための大事なシーンまで描こうとすると80~90コマになることもありますが、コマ数の多さは必ずしも面白さを決める要素ではないと思っています。作家さんが週刊連載を無理なく進められる作業量を踏まえると、多くても60コマ台までが適正ではないかなと。
かつて、うちでも他社でも、毎週90~100コマ程度の作品が多かった時期もありましたが、実際に読んでみると、長すぎて話の焦点がぼやけてしまっていたり、スクロールの長さが読者の読む負担になってしまったりすることもありました。読者は、コマ数の多寡で読む作品を決めるわけではありません。読み終えた時に「今回はこの表情が良かった」「今週は2人の関係が動いた」と、何か1つでも大きく印象に残るものがあれば十分だと思うんです。

韓国や中国では週2回更新がスタンダードだった時期もあったそうなのですが、作家さんの負担が大きくなりすぎて、連載の継続が難しくなるケースも少なくなかったと聞いています。読者の期待に応えることと、作家さんが持続的に制作できる環境を両立させること。その見極めは、読者の読書環境が変わっていく中で、我々が考え続けなければならない課題です。
──トレンドや市場の動きを踏まえつつ、作家さんの描きたいものとどのようにバランスを取っているのでしょうか。
たかしろ:今回のインタビューのメインテーマであるBLにおいては、基本的にあまり流行に合わせて作ることはしていません。『変態ストーカーに狙われてます』や『運命の番じゃないなら今夜だけ』も、「今これが流行っているからやろう」という発想ではなく、作家さんが「こういう2人を描きたい」と思ったところから始まり、それを商業作品としてどう見せるかを考えながら作ってきた作品です。
もちろん、comicoや他社書店のデータを元に「どういう読者がどんなBLを読んでいるか」は分析できるので、企画の参考にはします。ただ、「こういう読者がいるからこういう企画を」と提案するのではなく、まずは作家さんが何を描きたいのか、何が得意なのか、どこにこだわりがあるのかを聞くことを最優先する。その上で、それを商業でどう届けていくべきかを考えています。各プラットフォームのランキングや市場の大きな流れなどは意識しつつも、実際に描くキャラクターやカップリング自体は、作家さんとの対話の中で煮詰めていくようにしています。
『変スト』に『運命の番じゃないなら今夜だけ』 ヒット作品ができるまで
──具体的な作品についてもお伺いします。『変態ストーカーに狙われてます(変スト)』(著:みん未)は、元々は読切として始まったそうですね。そこから連載に至った経緯と、さのさんが担当として感じた作品の魅力を教えてください。
さの:元々は「『ストーカー』というモチーフを描きたい」というところから始まった全14話の読切だったと、前任の担当から聞いています。僕が引き継いだ際に改めて読み返して特に感じたのは、キャラクターの実在感というか、感情の機微がとても丁寧に描かれている作品だということです。みん未さんはそもそも話作りがとてもお上手で、毎話の山場やヒキもしっかり設計してくださっている。毎回読者コメントも盛り上がっているので、狙い通りに届いているのかなと思います。

編集としては、ヒキで「次にどういう展開が待っているのか」という期待を持たせることを意識しています。たとえば、次話に濡れ場シーンがある場面では、あえてそのほのめかしをヒキにすることで、「次回はweb版で読まなきゃ(※)」といった反応をいただけたことがありました。そうした期待感も含めて、続きが気になるように作っていますね。
※編注:comicoではアプリ版/web版の出し分け機能があり、濡れ場などの過激なシーンがある回はwebで完全版を読むことができる
──『変態ストーカーに狙われてます』は、フェティッシュな魅力を帯びた描写の数々も印象的な作品です。例えば水中でのキスシーンなど。
たかしろ:みん未さんは、「水中呼吸管理」と「口内経由血液摂取」が癖(ヘキ)とおっしゃっていて、実際によく描かれていますよね。
さの:そうですね。僕からそうした描写を止めたことはないです。もちろんアプリの規制の範囲内でのディレクションはしますが、描きたいものは一旦形にしてもらった上で判断したいなと思っています。
──編集者視点で見た、みん未先生の作家としての強みはどんなところにあると感じていますか。
さの:一言でいうと、説得力のあるキャラクター作りが非常に上手なところです。「この2人だからこそこうなる」と思わせる展開の作り方が巧みで、キャラクターの人間性を丁寧に積み重ねているからこそ、少し意外なシチュエーションでも「このキャラならこうするだろう」という納得感が生まれる。たとえば天音が中指を折るようなシーンでも、「やりすぎだ」と指摘する声が読者の方から出てこないのは、竜胆を想う天音というキャラクターの行動としてしっかり芯が通っているからだと思います。
──続いて、『運命の番じゃないなら今夜だけ』(著:綾瀬まの)についてお伺いします。こちらはBLならではのオメガバースという設定を用いた作品ですが、そもそもこの企画はどのように立ち上がったのでしょうか。
たかしろ:綾瀬まのさんは、元々はcomicoで男女恋愛の作品『キミのとなり。~年の差恋愛の事情~』(ゴリ名義)を描かれていました。その連載の終盤から私が担当となり、次はBLがやりたいということで、そこから『カタコイ日記』『お前のアレを俺にちょうだい!』を作ったんですね。その後、次は何をやろうかとなった時に、綾瀬さんから「オメガバースをやってみたい」と言われたのが『運命の番じゃないなら今夜だけ』のきっかけでした。ただ、その時点ではcomicoにオメガバースの作品があまりなかったので、WEBTOONでどう見せるかは2人でかなり考えましたね。
対話を重ねるうちに、綾瀬さんが描きたいのは「“運命の番”という設定を使いつつも、そのバース性だけに囚われない絆」や、「一途に想い合う関係性」なんだとわかったんです。そこで、アルファとオメガのベーシックな関係性を軸に、なるべくシンプルで、どんな読者でも入りやすい話にしようと決めました。
──第0話にオメガバースの設定解説を入れたのも、そうした背景があってのことなのでしょうか?
たかしろ:そうですね。comicoでは初めてオメガバースに触れる方が多いだろうと思いましたし、綾瀬さんが入れたいこの作品ならではの設定もあったので、第1話の前に解説話として第0話を入れることにしました。思いのほか「これで理解できた」という声を多くいただいて、入れてよかったなと。今はさまざまな独自設定が加わった派生型オメガバースも多いので、最初に「この作品のオメガバースはこういう設定です」と提示しておくと、その後の物語が動かしやすいという利点もありました。
実際、読者コメント欄を見ると「オメガバースをこの作品で初めて読んだ」という方がとても多かったんです。オメガバースの特殊性だけではなく、2人の関係性の魅力を忘れないように描こうという姿勢が、初心者の方も引き込める話題性につながったのかなと思っています。
──主人公の葉月が「番(つがい)の旦那がいる」と嘘をつき続けるという設定は、読者を引きつける大きなフックになっていると思います。こちらは企画の初期段階からあった要素なのでしょうか?
たかしろ:あれは、綾瀬さんの最初の企画案から相関図つきでほぼ出来上がっていました。旦那がいると偽って関係を続けるというところも、原型からほぼ変えていません。綾瀬さんとBLを2作作ってきて、次はある程度の長期連載にしたいと考えていた中で、企画案にあった「嘘がいつバレるのか」という緊張感は、物語を長く続けるための軸にできると思いました。
──上條にはいわゆるスパダリ的な頼もしさがありつつ、年下ならではの可愛げもあると思うのですが、バランスはどのように設計されたのでしょう?
たかしろ:綾瀬さんはスパダリを描くのがお得意な方なのですが、そこに「年下攻め」の魅力をうまく入れているんです。何か計算ずくで、「年下攻めが人気だから」とかで描いているのではなく、ご本人が心から好きで描いていらっしゃるところが、おっしゃっていただいたような良いバランスで描けた理由かと。かっこいいキャラクターを描きながら、可愛げもあってほしいというのが綾瀬さんならではのこだわりだと思います。
──編集者視点で見た、綾瀬まの先生の作家としての魅力を聞かせてください。
たかしろ:たくさんあるのですが……ひとつ挙げるなら、自分のこだわりを持ちながら、より良いものを作ろうと成長し続ける姿勢が大きな魅力だと思います。私は、ありがたいことに綾瀬さんと長らくタッグを組ませていただいていますが、意見を聞き合いながらも、一方でご本人のこだわりや譲れない部分ははっきりしている。そうして打ち合わせた後のプロットやネームでは、私の提案や想像を超えるものを上げてきてくださるので、毎回本当に楽しみなんです。対話しながら作品を高めていける作家さんで頼もしいなあと思いますし、そんな綾瀬さんの新作BL『コワモテ部長の可愛いヒミツ』が今年の5月にリリースされますので、ぜひまた多くの方に読んでいただきたいです。
作家、そして編集者が育つための取り組み
──編集部としての取り組みや新人発掘について伺います。社内で「BL研究会」という勉強会を開催されているそうですね。
まきあら:元々は、「comicoでもっとBL作品を増やしたい」という話から始まった会なんです。BLに詳しい編集も最初はそこまで多くなかったので、知識やノウハウを共有し合うところから始めましょう、と。まず「BL作品を作るにあたっての悩み」を出してもらい、そこから毎回テーマを決めてやっていく形でした。
さの:研究会のキックオフの時に、参加者全員がイチ推しのBL作品を発表し合ったのですが、僕は男性で1人参加していまして。なかなか新鮮な体験でした(笑)。ただ、その時の発表は編集者目線というより、BLファンとしての読者目線だったなと感じています。そこから、編集としてどういうBLを作っていけば良いのかを話していく中で、作家の個性と、どれだけ読者に共感してもらえるかのバランスが大事だと改めて思いました。
まきあら:「BLは特に、作家さん自身に描きたいものがないと難しいかもしれない」という話は出てましたね。一方で、描きたいものの方向性が極端すぎる場合は、それが読者に受け入れられるのかを考える必要がある。WEBTOONは長期連載が前提になることが多いので、何十話と続く物語として、読者が楽しく興味を持ち続けてくれるかという視点は欠かせません。もちろん、ニッチな題材がBL読者の心に深く響くこともあるので、その両方を見ながら企画していくことが大事だと思っています。

──そうした視点は、出張編集部や持ち込みの作品を見る場面にもつながっていそうです。実際に作品をご覧になる際は、どのようなところに注目されていますか。
さの:オリジナル・二次創作にかかわらず、身体のデッサンなど基本的な画力があるかどうかは大前提としてありますね。あとは演出力の高さです。BLにおける親密な関係性を表現する上で、欠かせない要素だと思います。
まきあら:特にオリジナルの場合は、その作品で初めて出会うキャラクターになるので、身体の描写に加えて、顔つきがコマごとにぶれないことも重要ですね。その上で、お話の中心となるキャラクターの魅力がきちんと伝わること、さらにBLカップリングとしての関係性や面白さが成立しているかは重視して見ています。
たかしろ:二次創作の同人誌を持ち込みで拝見する際には、編集者がその原作を知っているとは限りませんよね。だからこそ、編集者が知らない作品やキャラクターであっても、BLとして見た時にキャラクターの関係性の魅力がきちんと伝わってくるかどうかを見ています。それがしっかり面白く描けている方であれば、オリジナルでもやっていけるのではと感じます。
あと、画力や表情の表現力ももちろん大事なのですが、個人的に重視しているのがセリフです。画力は連載を続ける中で伸びていく方も多い一方で、セリフの力は編集が後から鍛えるのが難しい部分でもあります。自分のキャラクターに「このセリフを言わせたい」という意志が伝わる方は、たとえ持ち込み時点で画力に課題があっても、表現したいものの核がしっかりあるように感じます。そこを活かしつつ、画力を伸ばしていける道筋が見えると、声をかけやすいですね。
まきあら:実際に、出張編集部での出会いがデビューにつながったケースもあります。以前オリジナルのBL漫画を持ち込んでくださった春町つきさんという作家さんに可能性を感じ、「comicoタテカラー漫画賞2024」への応募をお勧めしたところ、その作品がオールジャンル部門でグランプリを受賞しました。その後、連載会議を通過できなくて担当としても心苦しい時期があったのですが、今年1月にようやく会議を通過し、現在は連載に向けて準備を進めています。
──会議を通過できなかった、もしくは通過できた要因はなんだったのでしょう。
まきあら:後から考えると、作家さんのやりたいことを尊重するあまり、読者にどう届くかという設計をもう一段詰め切れていなかったのだと感じました。そこで方針を見直し、読者目線も踏まえてテーマをゼロから練り直した結果、晴れて……という感じですね。結果的に当初より面白い作品にすることができたのは、作家さんの頑張りが全てだったと思います。
──そうした経験も含めて、毎年「comicoタテカラー漫画賞」を続けている中で、編集部として大切にしていることは何でしょうか。
たかしろ:漫画賞は、漫画家さんに向けた編集部からの”宣言”だと思っています。「こういう才能を求めていて、そのためにこれだけの投資をする」というメッセージです。だからこそ、応募してくださった方に対して誠実でありたいと思っています。
2022年の初開催時には、特別審査員を務めていただいた元「週刊少年ジャンプ」編集長・鳥嶋和彦さんとも話し合い、「該当作なし」はやめようというルールにしました。業界を見渡すと、莫大な賞金総額を掲げながらも結果的に該当作なしとなる漫画賞もありますが、うちのメイン漫画賞である「comicoタテカラー漫画賞」は、必ずどの賞も受賞者を出しますし、「デビュー確約」と言ったら、必ずデビューにつなげる。そうした方針で続ける中、BLでは2023年にオリジナル作品部門でグランプリを受賞した四季施しあさんが『敏感男子、調教される』で連載デビューし(2025年連載開始)、2024年のオールジャンル部門グランプリの春町つきさん(『シーサイドホリデー』で受賞)は、連載開始に向けて鋭意準備中です。
実際に、応募してくださる方のレベルも年々上がってきていると感じています。「comicoタテカラー漫画賞なら、受賞後のデビューまできちんとつながっていくんだ」と信頼していただけているからこそ、挑戦してくださる方も増えているのかなと。これからも、少しずつ信頼を積み重ねていけたら嬉しいですね。

■作品情報
『変態ストーカーに狙われてます』
著者:みん未

作品ページ:https://www.comico.jp/comic/1044
『運命の番じゃないなら今夜だけ』
著者:綾瀬まの

作品ページ:https://www.comico.jp/comic/8404
























