明治の「煩悶青年」は、現代の「クネクネ」のルーツであるーー『「いまどきの若者」の150年史』を読む

150年にわたる「若者の名付け」の系譜
「いまどきの若者は○○だ」といった若者論や世代論は、一人ひとり違うのに一括りにするなと批判されがちだが、昔からずっと語られてきた。パンス著『「いまどきの若者」の150年史』(ちくまプリマ―新書)は書名通り、若者論がどのように書かれてきたのか、歴史をたどった本だ。著者は、その意義を語る。「世代」や「若者」といったん大まかに括ってみたうえで、同時代の社会と照らしあわせ、個々の問題へ掘り下げる。それによって既存のイメージを更新することができるのだと。
本書は、明治時代から青年、若者がどう捉えられてきたかをふり返っていく。現代と対比した面白い指摘もある。例えば、最近のSNSでは文系インテリ系の若者を「クネクネしている」と表現したりするが、中学生・高等学校生が増加した明治30年代には「煩悶青年」という呼称があった。著者は「クネクネ」のルーツは、「煩悶」だったのではないかと推理する。
当時、徳富蘇峰は、「煩悶青年」と並んで、社会になじんだ「模範青年」、利己的に成功を追い求める「成功青年」、自分の好きなことに没頭する「耽溺青年」、特徴のない普通の人である「無色青年」といった傾向がみられると論じた。キーワードを設けたこの種の分類は、後の時代の若者論にもよくみられる手法だ。
本書は、そのように現在と過去の若者論の語られ方の共通性を指摘する一方、時代ごとの差異や変化を見つめる。若者が社会運動を牽引し(団塊の世代)、文化を生むようになった1960~1970年代以降に、若者論は盛んになった。学生運動が退潮した1970年代には、若者がしらけて社会に無関心になったといわれたが(しらけ世代)、政治との距離のとり方は多様になり、彼らは消費による社会関与の先頭に立ったと著者は考えている。それに伴い、1980年代の若者論は、消費社会論、マーケティング論のキーワードとして「若者」を使うようになったという(新人類)。本書は、そのように時代の変化をテキパキと記述していく。
若者の成熟と大人の若者化という奇妙な逆転

団塊の世代、しらけ世代、モラトリアム世代、新人類、オタク、団塊ジュニア、就職氷河期世代、ロスジェネ、ゆとり世代、さとり世代、Z世代……。様々な呼称を与えられた各時代の若者論が俎上に載せられるが、著者自身は「団塊ジュニア」と「ゆとり世代」の間の1984年生まれで「名付けられなかった世代」だと自らを位置づける。名付けられなかったために、かえって世代を名付けることに関心を持ったということでもあるのだろう。著者の年齢ゆえに1990年代以降のパートは、自身の実感も織り交ぜた記述になっている。現在の状態がどのように生み出されたのか、その経緯を追った本書の後半は、特に興味深い。
団塊世代は、集団主義の社会に「個」を持ちこんだ。1980年代のバブル景気の時期には「個」への欲求が、ファッション、音楽、ライフスタイルなど様々な領域で「自分らしさ」を求める「個性」へと転化した。経済が豊かになり、社会が「自由であること」を前提に動き始めたことが背景にあると、著者はとらえている。だが、バブルが崩壊した1990年代には「自由に生きる」という態度が、「自由に生きるしかない」という追いつめられた現実と並行するようになり、「自己責任」というキーワードが広まった。
新しい時代には前の時代を否定する言説が広まりがちだが、著者は2000年前後のそれは「前の時代への反抗」というより「反抗に対する反抗」だったと指摘する。当時、インターネットで右傾化が進んだといわれたが、同時に「反社会的(とされるもの)への反発」が水面下で大きな流れになっていたというのだ。それは、団塊世代に代表されるような、年長者への脅威となるような反発の若者文化を否定することでもあった。
以後に登場した日本のZ世代は、政治意識が低いといわれる。だが、著者はそれを否定し、むしろ彼らは政治や社会問題に敏感で、その対応を生活レベルに落としこみ、自分が壊れない距離であつかう術を身につけていると論じる。
そうした時代推移を経て現代の若者は、逸脱や反抗といった「かつての若者らしさ」を持てなくなった。一方、大人は、過去の大人らしさの基盤を失い、「かつての若者のまま、時間が止まっている」。そこに「老害」批判も出てくる。「若者の成熟」と「大人の若者化」というねじれが生じ、あらゆる人が「若者化」したのだと、現状を読み解く。
本書は、若者論の変遷を軸にして、経済や文化など社会がどのような状態であったのか、人々はどのように考え生きたのかをふり返った内容だ。一種の決めつけといえる若者論、世代論を検討し直すことで、いろいろな先入観を覆す。そうすることによって歴史の再整理を試みている。「クネクネしている」と「煩悶青年」の相似に触れた部分のような小ネタを散りばめつつ、各時代と正面から向きあってもいる硬軟両面のある軽快な労作だ。
■書誌情報
『「いまどきの若者」の150年史』
著者:パンス
価格:1,870円
発売日:2026年3月11日
出版社:筑摩書房
レーベル:ちくまプリマー新書

























