【漫画】もしも専業主婦の母が突然、長い眠りについてしまったら? 家族の在り方を考えさせられる『ママの冬眠』

育児に疲れたママが冬眠してしまったら——。Xに投稿された漫画『ママの冬眠』が、ユニークな着想で人気を博し、特に育児に励む母親からの共感を多く集めている。
作者はemixさん(@emix_sousakuka)。“休む”という主題の裏に潜む「不要になった者は消えるべきか?」という深い問い、そしてAI時代の創作論まで。作者にじっくり聞いてみた。(小池直也)
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――『ママの冬眠』、もともと4〜5年前にコンペで大賞を取られた作品なんですよね。
emix:朝日新聞のウェブ媒体「withnews」の月例コンペがあって、それの「私の長いお休み」というテーマで提出した作品でした。大賞をいただきましたね。本当はエッセイ系を集める賞だったんですけど、ガン無視して創作で出しまして(笑)。当時Yahoo!ニュースのIT部門で2位に入って、驚いてスクショも取らずに閉じた記憶があります。その後も3本くらいもらって、コンテスト荒らしみたいな感じでした。
――「ママが冬眠してしまう」という着想は、どこから?
emix:自分の経験ではないんです。世間で「専業主婦は楽してる」とか「専業主婦は大変なんだ」って両極の意見がXとかで定期的に上がるじゃないですか。あれがずっと気になっていて。
ただ長いお休みがあったら、主婦も休みたいだろうなと。「冬眠」というモチーフ自体は、たまたま浮かびました。「休むんだったら冬眠ぐらいしたらええやん」というイメージでしたが、自分でもよく出てきたなと思います(笑)。
――読者からの共感は「私も冬眠したい」が多かったとか。
emix:ワンオペで疲れきっている、お母さんからのコメントが多かった気がします。でも実は本作で描きたかったのは「ママは大変」ではないんです。「不要になった人はいなくなった方がいいのか?」という問いなんですよ。
――というと?
emix:たとえば母親が病気で動けなくなる状況があるとします。家族は母の役割を分担できるようになっていく、生活は回り始める。すると本人は「私は何もしていない、みんなの負担になっている、もう生きていても仕方ない」と思う可能性があります。
冬眠中のお母さんも、家族がうまく回り始めた瞬間に「もういっか」と思ってしまうんですね。卑屈な気持ちじゃなくて、自然に。そのときに家族側がどんな言葉をかけて引き止められるか、という話なんです。
――それが旦那さんがキスして目を覚ますラスト、そこに繋がるわけですね。
emix:そうなんです。「君が必要だ」という最初の地点に戻ったということ。結婚って、「主婦の役割を担ってほしい」と思ってしませんよね。一緒にいたいから結婚した。だから、この話は何もなくなった夫婦が原点に立ち戻る話なんです。
――冬眠中の感覚も独特ですよね。どこか幽体離脱のような。
emix:精神耐久性のテストで長い時間、無刺激の空間に置かれると発狂しそうになるという話があります。本作のお母さんは発狂しないけれど、自分がどこにいるかわからない状態にいるんですね。夫が体に触れて、初めて「ああ、私はここにいるんだ」と身体的な感覚を取り戻したという。
――自分の経験ではないそうですが、物語にリアリティを感じました。
emix:感情の起伏が昔から激しくて、違和感を放置できないタイプなんです。なんでだろう、なんで腹が立つんだろう、という気持ちをノートに書いたり、人に話したりして噛み砕いてきました。
その積み重ねが「しおり」のように引き出せるんですよね。「冬眠」という言葉もポンと無意識に出てきたものです。漫画家には経験より「感じ取る」感性が大事だと思いますよ。
――感じ取る。それは昨今のAI創作にも繋がる問題ですね。
emix:AIは道具なので、けしからんとは思わない派です。ただ、漫画ってネーム(下書き)と呼ばれる、物語を映像言語に翻訳する作業が醍醐味で、視線誘導やコマ割り、リズムも全部作家の意図で組まれています。
でもAIが並べた絵は今のところ「絵の羅列」で、ネームを切る人が見ればすぐわかる。だから現状は漫画には使えないなと。ただ技術が追いついて、私みたいな絵を上手く描けるようになったら、もう作画は任せたいくらいではあります。絵は命を削るので(笑)。
——なるほど。
emix:先ほど話した通り、「ママが大変」というモチーフ自体は普遍じゃないですか。誰でも思いつく。でも大事なのは、それをどう料理して感動まで持っていくか。物語自体のアイデアにはそこまで意味がなくて、それをどう処理するかのアイデアこそが作品なんです。
――今後の展望は?
emix:今は女性向け漫画レーベルで原作・ネームを担当する仕事を進めていて、早ければ8月に出る予定です。個人ではpixivやXで試行錯誤しながら、表現力を上げるための研究中。やりたい絵に手が追いつかないジレンマと、日々戦っていますね。



















