田中みな実やコムドットの記録的ヒット作を手がけた編集者・小寺智子が語る、大物にも“イエスマン”にならない理由

田中みな実、コムドット、アン ミカ……数々の著名人から絶大な信頼を寄せられ、出版界に記録的なヒットを打ち立ててきた編集者・小寺智子。裏方としての主観を、言葉をテーマにした自身のオンラインコミュニティで発信してきた彼女が、初の著書『ある編集者の主観』(サンクチュアリ出版)をリリースした。発売からわずか3ヶ月で続々重版がかかり4万9千部を突破、SNSでも熱い支持を集めている。
なぜ、稀代のヒットメーカーは今、自らの主観をさらけ出したのか。セルフブランディングの真意から、経験を通して培ってきた人間関係論、そして言葉を紡ぐことへのピュアな気持ちまで。彼女にとって初めてのロングインタビューで、話を聞いた。
編集者が「著者」になるということ
――これまで数多くのベストセラーを世に送り出してきましたが、今回あえてご自身が著者となり、主観をさらけ出すことを選んだきっかけは何だったのでしょうか。
小寺智子(以下、小寺):実はこれまでも本を出しませんかというお話は何度かいただいていたんです。ただ、編集者という立場上、「私の本はまだ売れない」という冷静なマーケターとしての目線が勝り、見送ってきました。
そんな中で、今回担当してくれた編集担当の大川美帆さんが「今の自己啓発本やエッセイ本の著者で小寺さんのような言葉の紡ぎ方をする人がいない=競合がいない。小寺さんの言葉で救われる人がたくさんいる」とおっしゃってくださったときに、マーケター脳が素直に反応したんですよね。私のリアルで本質的な在り方が時代にマッチするかもしれないな、と。何より、サンクチュアリ出版さんの「ワンチームで本を作り、広く届けていく」という姿勢が、自分のブランディングと合致すると思えたことも大きかった。また、40歳という節目を迎え、自分のこれまで培ってきた在り方や紡いできた言葉が少しでも誰かの背中を押し、役に立てればと感じたことも大きかったですね。
――ご自身の言葉を編集する作業はいかがでしたか?
小寺:今回は2022年から主宰しているオンラインコミュニティ「Editorial...」で発信してきた言葉がベースになっています。コミュニティメンバーに向けて書いてきたものはかなり具体的なのですが、それは彼らが私という人間を知ってくれているからこそできること。出版となるとそれらの文章を不特定多数の方々に届けるために抽象度を上げる作業が必要ですが、そこに最後まで葛藤しました。
まとめすぎると熱量が下がってしまうし、生々しすぎると独りよがりになる。校了直前も発売前も、「この本がどう受け取られるか」と怖くなったほどです。けれど、完成した本を手に取って思えたのは、1ページ目から288ページ目まで、一つの嘘もないということ。美しさや正解ではなく、一人の人間の「揺らぎ」として受け取ってほしいですね。
「顔を出さない」ブランディングの真意
――小寺さんはInstagramのフォロワーが7.8万人で熱狂的な支持を得ていますが、一貫してお顔は出されていません。
小寺:自分の“言葉”を届けたいと思った時、私の場合はビジュアルの情報がノイズになってしまうと考えたんです。「なんとなく雰囲気のある40代女性」くらいの情報で十分。それ以上の視覚情報が入ってしまうと、言葉にフィルターがかかってしまう気がして。
――ご自身を客観的に捉えていらっしゃるんですね。
小寺:そうですね。編集やプロデュースを生業にしてきたので、自分を“商品”としてどう見せるべきか、周囲の声も聞きながら冷静に判断してきました。自分自身に対しても、その客観性を徹底しています。
人間関係を整える「断捨離」。その根底にある人類愛

――本書の中で特に鮮烈に映ったのが、第1章にある「人間断捨離」論でした。一方で、SNSなどで以前綴られていた「宅急便屋さん」とのエピソードも印象深く、小寺さんらしい、深い優しさも感じました。
小寺:ありがとうございます。宅急便屋さんの話、よく覚えていらっしゃいましたね(笑)。私は荷物を受け取った後、すぐにドアを閉めて「カチャッ」と音を立てて鍵をかけるのが嫌で。ドアを閉めた後もその前で静かに待って、彼らの足音が遠のいたのを確認してから鍵を閉めるようにしているんです。それは家族でも、友達でも同じですね。
――それは、相手への配慮からでしょうか。
小寺:いえ、誰かに気づいてほしくてやっているわけではなく、単に送り出した後に「バタン!」と音を立てて閉めるのが気持ちが良くないだけで。でもある時、宅急便屋さんに「いつも静かに閉めてくれてありがとうございます」と言われたことがあったんです。宅配便屋さんの事務所でも話題になっていたと聞いて驚きました。
――そうした細やかな愛情を持ちながら、「断捨離」も必要だと説く理由をお聞かせください。
小寺:私は元々、人類愛が強いタイプなんですよね。だからなのか、よくも悪くもエネルギーを吸い取られて勝手に疲弊してしまうことも多かったんです。年齢を重ねる中で、自分の限られた時間や愛情というリソースをどこに注ぐべきかを考え、意識的に境界線を引くようになってから、人生が劇的に好転しました。冷酷に聞こえるかもしれませんが、自分を整えるためには、ものやことだけでなく、人の断捨離が必要な時もある。そうすることで、本当に大切にすべき人たちだけに全力で向き合えるようになったんです。
コミュニティは、たとえ会員が10人になっても続ける拠り所
――その「大切にすべき仲間」が集う場所の一つが、オンラインコミュニティ「Editorial…」なのですね。今や会員数は3,000人規模となっています。
小寺:私にとって、このコミュニティは何よりも大切にしている心の拠り所です。ここでは、家族のような感覚で、言葉を大切に扱う仲間たちと繋がっています。私は主宰者でありBOSSなわけですが、彼らに依存せず、当初からの純度を保ち続けるために、私自身が本業である編集者やプロデューサーとしての仕事で経済的に自立することを逆に強く意識するようになりましたね。
――会員数が重要ではないからこそ拠り所になっている、ということですか。
小寺:そうですね。会員数の増減に依存する形はヘルシーではないので。極端な話、たとえ会員数が今の数千人から10人に減ったとしても、私はこの場所を守ると思います。私自身が“本当の自分”でいられる場所を維持し続けることが、結果として良い仕事、良い言葉を生むサイクルを生むと信じていますから。
編集者とは「才能を適切な形で届ける人」
――小寺さんにとって編集とは、改めてどのような行為だと定義されますか?
小寺:一言で言えば、「知られるべき才能を適切な形で世の中に届けること」です。それは著者が作りたいものでも、編集者のエゴでもない。あくまで「読者が求めているもの」に対して、どこまでも忠実であるべきです。
――コムドットをはじめ、小寺さんだから、と信頼を寄せる著名人も多くいらっしゃいます。なぜだと思いますか?
小寺:どんな大御所に対しても、私は決してイエスマンにはなりません。「その考え方は間違っていると思います」「ファンの方々は求めていないと思います」とはっきり伝えます。田中みな実さんやコムドットの皆さんとも、「著者でも、編集者でも、カメラマンでもなく、読者が喜ぶものを作る」という一本筋の通った姿勢で向き合わせていただきました。その信頼関係があったからこそ、あのような多くの方に愛していただける作品が生まれたのだと思います。
言葉を軸に、次なる表現の舞台へ
――現在は出版の枠を超え、多岐にわたるプロデュースを手がけられています。今後、挑戦したい表現の形はありますか?
小寺:今は「作詞」にとても興味があります。もともと同じ1983年1月生まれである宇多田ヒカルさんを強くリスペクトしていて、歌手という職業に対して畏怖の念を持っていました。20年間言葉を扱ってきた今、ようやく大好きな音楽と言葉を繋ぐ場所に関わりたいと思うようになって。
――この本を手に取った読者にメッセージをお願いします。
小寺:この本は、私の43年間の人生で得た「主観」をさらけ出したものですが、皆さんにとって、心が動く言葉に一つでも出合っていただけたらいいなと思います。自分の言葉が、誰かの一歩を踏み出すきっかけになれるのなら、こうして編集者である私が著者になった意味があるのかもしれないですね。
■書誌情報
『ある編集者の主観』
著者:小寺智子
価格:1,760円
発売日:2026年3月5日
出版社:サンクチュアリ出版




























