超絶技巧のどんでん返し! 芦沢央の短編ミステリ集『あなたが正しくいられたとき』が切れ味抜群

短編ミステリには、長篇と違った魅力がある。幾つか挙げることができるが、私が特に惹かれるのは〝切れ味〟だ。短い枚数でひとつの物語世界を堪能しながら、ミステリの部分に鋭い切れ味を見せる作品には、頭が痺れるような快感を覚える。この短編ミステリの切れ味の魅力を、あらためて実感させてくれるのが、芦沢央の『あなたが正しくいられたとき』なのだ。
本書には六作が収録されている。同じキャラを使った作品が二つあるが、シリーズというほどではない。ほぼ純然たる短編集といっていいだろう。また、巻末にある「あとがき」で、本書成立の過程と、各作の解説をしている。これが面白い。デビュー十五年目に入った作者は、後輩の同業者から作家として活動していく上で気をつけた方がいいことを聞かれ、「短編を書く時には、単著として一冊にまとめる意識を持った方がいいですよ」と答えているそうだ。近年は状況が変わったが、ミステリの短編集は売れないといわれていた時期があった。短編集を出すにしても、各話を貫く仕掛けを施した連作にしたり、内容は独立していても各話共通のテーマを持った作品が求められたものである。作者の発言は、それを踏まえたものであろう。
ところが肝心の作者自身が、気がつけば単行本未収録作品が二十本以上に膨れ上がっていた。このことについて、「ひとつのお題に対して複数人の作家が寄稿する、いわゆる『競作アンソロジー』が好きで、依頼を貰うとつい引き受けてしまう」が、アイデアを思いつくと一番生かせる形は何かということで頭がいっぱいになってしまい、単行本化のために他の作品と似たトーンにしようとなどといったことが、頭の中から飛んでしまったようである。そのため未収録短編が溜まってしまったが、一部とはいえ本書で手軽に読めるようになったのが有難い。
さて、外側の話はこれくらいにして、内容を見てみよう。冒頭の「あなたが正しくいられたとき」は、消防士の窪田が、河川敷で開かれた高校の同窓会に出席。そこで元同級生で元カノの黒川と再会する。黒川は夫が亡くなり、ひとりで四歳になる娘のユキを育てていた。黒川を気にする窪田だが、ちょっと目を離した隙に、ユキが川に転落。川に飛び込みユキを救出した窪田は、黒川と共に病院に向かった。その間、黒川の言動から彼女がユキを川に突き落としたのではないか、さらにユキを虐待しているのではないかという疑問を抱くのだった。
本書の帯に「超絶技巧のどんでん返し!」とあるが、この惹句がもっとも当てはまるのが本作だろう。正義感の強い窪田の感じた黒川の言動への疑問が、ある人物の推理により、まったく別の意味を持つ。それまで眼前にあった風景が、一瞬にして切り裂かれ、下から本当の風景が出てくるとでもいえばいいのか。これこれ、これだよ。これこそ短編ミステリの醍醐味である。
しかも真相が明らかになったとき、主人公の〝正義〟が問われることになる。ミステリのサプライズが、人間としての在り方まで剔抉するのだ。そこに本作の素晴らしさがある。「あとがき」で作者は、「結果的にかなり私らしい短編になったと思う」といっているが、全面的に同意する。
続く「代償」は、渾身作を書き上げたミステリ作家が、完成したばかりの原稿を妻に読んでもらう。しかし数日後、妻からWEBで公開されている小説とよく似ていると指摘されて困惑する。自分が創作したはずの話が、なぜ盗作としか思えない状況になったのか。終盤の謎の転調に驚愕。これも切れ味のいい作品だ。
以下、刑事ドラマ「古畑任三郎」シリーズを彷彿とさせる倒叙ミステリ「薄着の女」は、ラストに予想外のオチがつく。おなじ刑事コンビが登場する「待てば無料」は、刑事の推理が鮮やかであるからこそ、物語の着地点が際立っていた。また、「立体パズル」と「投了図」は、人間の心理や同調圧力などが、巧みにストーリーへ織り込まれている。すべて切れ味抜群だ。
さらに「あとがき」を読むと、作者の発想などが窺える。同時に、他の作品へと興味が向かうようにもなっている。もし、あなたが芦沢作品を未読だったら、まず本書を読んでほしい。そしてそこから、「あとがき」を参考にして、他の作品に手を伸ばしてみてはどうだろう。

























