『カンブリア宮殿』なぜ金原ひとみが新MCに? 村上龍と共通する“社会への眼差し”とは

『カンブリア宮殿』なぜ金原ひとみがMCに?

 『カンブリア宮殿』が4月2日(木)放送回からリニューアルし、新MCに芥川賞作家・金原ひとみと音楽クリエイターのヒャダインが務めることが発表された。これまで村上龍と小池栄子が長年MCを務めてきた同番組は、時代の先端を走る企業のトップをゲストに招き、ビジネスマンを中心に幅広い人々の支持を集めてきた。

 作家がMCを務めるテレビ番組自体が貴重な中、改めて金原ひとみが起用されることで、番組にどのような変化をもたらすのか。作家/文芸評論家であり、『芥川賞ぜんぶ読む』(宝島社)の著者としても知られる菊池良氏に、金原ひとみのMCへの期待について話を聞いた。

金原ひとみ『蛇にピアス』(集英社)

 まず菊池氏が言及したのは、やはり前任MCである村上龍との関係性だ。

「金原ひとみさんのデビュー作である『蛇にピアス』が芥川賞を受賞した背景には、選考委員だった村上龍さんの後押しもあったとされていますし、実際に金原ひとみさんと村上龍さんには、作家としての共通点がいくつもあると思っています。時代背景やキャリアは違いますが、どちらも文学の内部にとどまらず、社会の潮流を強く意識してきた書き手です。

 村上龍さんは『愛と幻想のファシズム』や『昭和歌謡大全集』といった小説のほか、2003年には中学生向けに様々な職業を紹介する『13歳のハローワーク』が累計発行部数で130万部を売り上げるミリオンセラーになるなど、経済や労働、社会構造を文学的に可視化してきた作家です。一方で金原ひとみさんは2003年に発表したデビュー作『蛇にピアス』以来、個人、とりわけ女性の生き方や欲望、痛みを描き続けてきました。方向性は違いますが、“現実を直視する姿勢”という点では非常に近いものがあると思います」

村上龍『新・13歳のハローワーク』(幻冬舎)

 また、金原作品が持つ読者層の広さにも注目する。デビュー当時、文学ファンのみならず、キャバクラで働く女性など、いわゆる“文壇の外側”にも多く読まれていたことを、菊池氏自身リアルタイムで体感していたという。

「あの頃の金原さんの読まれ方は、今の純文学とは少し違っていましたよね。文学と現実が地続きだった。その感覚はいまも失われていないと思います」

 そうした視点は、『カンブリア宮殿』という経済番組においても大きな強みになるのではないか。

「金原さんが経済をどう見るのか、という点はすごく気になります。数字や理論ではなく、そこに生きる“個人”の感情や違和感から問いを立ててくれるのではないかと期待しています」

 さらに菊池氏は、金原の“タレント性”にも触れて、番組を通じて新たなファン層を獲得する可能性も高いと見る。

「すでに熱狂的な女性ファンが多い作家ですが、テレビという場を通して、これまで彼女の小説を読んでこなかった層にも存在が届くと思います。それは文学にとってもいいことではないでしょうか。作家がテレビという場で自分の言葉を使って語る機会は、以前より明らかに少なくなりました。作家が持つ想像力は、昨今の社会では十分に活用されていないように感じています。文壇や読書界の内側だけで消費されるのではなく、社会全体に開かれていくこと。その意味でも、金原ひとみさんのMC就任は象徴的で、有意義な試みだと思います」

 『カンブリア宮殿』という長寿番組が、金原ひとみという新たな語り手を迎えて、どのような風景を見せてくれるのか。文学と経済、その接点に生まれる化学反応に注目したい。

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