連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2025年6月のベスト国内ミステリ小説

2025年6月のベスト国内ミステリ小説

藤田香織の一冊:天童荒太『昭和探偵物語 平和村殺人事件』(角川春樹事務所)

 <ビートルズが日本を訪れてコンサートを開いた一九六六年。昭和四一年。日本の片隅で、或るおぞましい事件が起きた>。その現場に警視庁広報部所属の警部補として居合わせた人物が、現代からの回想形式で当時の顛末を語る。「探偵」役を務める鯨庭(イサニワ)行也は流しのギター弾きとして酒場を回りながら、持ち前の観察力で人やペットや遺失物探しもしていて、とぼけ具合も人たらし加減も絶妙。魅力的すぎて脳内キャスティングせずにはいられない。本文中に挟み込まれる昭和の慣習や生活様式の解説も、理解と発見と衝撃に繋がり読み応えあり!

酒井貞道の一冊:三津田信三『寿ぐ嫁首 怪民研に於ける記録と推理』(KADOKAWA)

 旧家の結婚について奇妙な因習が残る村で、殺人事件が発生する。これだけならよくある話と誤解されかねないが、事件のせいで家長のポジションを占める人物が亡くなったのに、その後も「因習」が淡々と続行・決行されていくのは不気味。加えて、村で誰に何が起きているかがなかなか見えてこないため、物語の焦点が絞りきれない状況が続く。何だこれはと思っているうちに、精度の高い推理で驚愕の真相が姿を現す。しかもホラーとミステリの狭間に棲むシリーズならではの、ぞっとする要素や展開も待ち受ける。たっぷり楽しめる一遍である。

杉江松恋の一冊:柴田佑紀『リゼル13』(光文社)

 新型の麻薬売買を巡り、高校時代からの腐れ縁四人組と新時代に適応した経済ヤクザとが攻防戦を繰り広げる物語、と書くとものすごくありきたりだが、それに留まらない魅力がある。要するにアマチュアとプロフェッショナルの戦いで、両者とも自分の力に淫して、そのために破滅していくのである。突如訪れる裏切りであるとか、登場人物を使い捨てにする非情さなど、この手の犯罪小説になくてはならない要素が山盛りで、新人の第二作とは思えない手練れ感がある。この作品で化けたのだ。仙台という地方都市が舞台であるところも評価高い。

 ホラー寄りの作品に評価が集まりました。また、一般文芸との境界線上にある作品も注目されて、異色の一月ということになりそうです。このあとはどういう展開が待っていますことか。来月もお楽しみに。

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