『愚行録』から『不等辺五角形』へ 貫井徳郎が語る、「関係者の証言」で紡ぐミステリの新境地

ホワイダニットは長篇には向かない謎

貫井:もともとは四人で考えてたんです。男二人女二人の幼馴染みがいて、そこに外部から来た人がいて、その人が殺されちゃうと。だから最初、雛乃は外部の人の予定で、彼女の証言だけないのはその名残ですね。でもうまくいかなくて、別に男女同数に揃えなくてもいいと思って、五人にしてから『不等辺五角形』になりました。『不等辺四角形』だとタイトルに適さないんです。
――2024年に約1年連載された作品ですが、すでに貫井さんは日本推理作家協会の代表理事に就任していたわけで、創作との両立についてはどのような苦労がありましたか。
貫井:作品の生産量自体は変わっていないと思うんです。でも、代表理事は大変な時とそうでない時があって、大変な時はいろんな問題がかたまって起きる。『不等辺五角形』を連載した「紙魚の手帖」(東京創元社)は隔月刊で、しかも8月号はSF特集で休載だったので、大変じゃない時に書けて良かったです。
――執筆のペースは。
貫井:昔は一日10枚でしたが、最近は厳しいですね。乗った状態で書いても7、8枚とか。代表理事だからじゃなく、たぶん歳をとって集中力が落ちたからだと思うんですけど(笑)。
――今後、発表予定の作品についてお願いします。
貫井:幻冬舎で一本連載をしていまして、『後悔と真実の色』のシリーズの三作目を書いています。といってもエピソード0ですね。一作目で警察を辞めた主人公の現役バリバリの頃を書いています。連作中篇集で、来年出せればいいなと思っています。あと、掲載はこれからですが、実業之日本社で新連載が始まります。今まで書いていないような話で、クリス・ウィタカー『われら闇より天を見る』(2022年/早川書房)とかディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(2023年/早川書房)みたいな感じの、可哀相な子供の一人称の話を書いています。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
貫井:犯人は誰かという話ではなく、動機は何か、何故殺したのか……というタイプの謎をホワイダニットと呼ぶわけですが、ホワイダニットって一発ネタなので短篇向きだけど、長篇には向かない謎なんです。これもホワイダニットですけど、長篇なのでつまらないんじゃないかと不安でした。書店員さんたちの感想を読むと面白かったと言ってくださっていますが、ミステリ的なものより一般文芸的なものを期待したほうが楽しめる小説かもしれません。

■書誌情報
『不等辺五角形』
著者:貫井徳郎
価格:1,980円
発売日:2025年6月12日
出版社:東京創元社






















