伊坂幸太郎の最新短編集『パズルと天気』は“伊坂ワールド”全開! 独創的な設定とキャラクターの魅力

独自の作品世界を創り上げている作家の場合、その苗字を使って〇〇ワールドと称することがある。そんな作家のひとりが伊坂幸太郎だろう。実際、最新刊となる短編集『パズルと天気』(PHP研究所)の帯にも、「伊坂ワールドの魅力がつまった幸せな短編集」と記されている。この言葉には大いに同意する。では、伊坂ワールドとは何か。独創的な設定やキャラクターによる、オリジナリティに満ちた物語世界であろう。そんなことを本書を読みながら、あらためて考えてしまった。
本書には、二十年以上前にアンソロジーの依頼で書かれた作品から、この本のために書き下ろされた作品まで、全部で五編が収録されている。冒頭の「パズル」は書き下ろし。主人公の“僕”は、そそっかしい性格で、昔からミスが多く、何かを手伝ってもかえって負担を増やしたりして、自己嫌悪に陥る人間だ。そんな僕がマッチングアプリで出会い、恋人になった朝田寧々も、かなりそそっかしい。似た者同士のためか、上手く付き合っていたふたりだが、ある日を境に寧々の態度がおかしくなる。また、僕の周囲でも、微妙に不審な出来事があった。困った僕は、マッチングアプリでしか出会えないという、名探偵の財音杏に相談するのだった。
事件の真相も良いのだが、本作でもっとも注目すべきは、名探偵役の財音杏である。僕とちょっと会話したただけで、鮮やかな推理を披露する彼女は、まさに名探偵なのだ。しかし、そこからストーリーが捻じれていき、予想外の場所に着地する。僕と杏が交わす、完全数の扱いも愉快。マッチングアプリの名探偵というユニークな設定と、杏のキャラクターによって、物語の面白さが倍増しているのである。
続く「竹やぶバーニング」は、仙台の七夕まつりの雑踏の中を、かぐや姫の入っている竹を捜すよう頼まれた“僕”と、その友人の竹沢不比人が奔走する。いや、かぐや姫ってどういうことよと思われるかもしれないが、そこは作品を読んで確認してほしい。本来ならありえない設定を、しれっと現実の中に落とし込む、作者の手練が素晴らしいのだ。ホストの不比人が、遠く離れた場所にいる美女を発見する「美女ビジョン」の持ち主(“本来なら、美女センサーという呼び名のほうが正しいのかもしれないが、語呂からすると、美女ビジョンのほうがすわりがいい”という僕の説明が楽しい)だったり、「竹取物語」の準えがあったりと、ネタも豊富。行先の分からないストーリーを堪能した。
第三話「透明ポーラーベア」は、恋人の千穂と動物園に来た“僕”が、かつて姉の恋人だった富樫さんと、その恋人と出会う。僕は転勤が決まっており、千穂の関係がどうなるか悩んでいる。四人で話をしているうち、僕の姉のことが明らかになっていくのだが、これも読んでのお楽しみ。よくこういうことを考えつくものだ。やはり伊坂ワールドは独特である。





















