自衛隊のリアルを描き続けて13年『ライジングサンR』完結記念インタビュー「人に助けられて生きている」

自衛隊には社会のセーフティネットになっている面がある

ーー『ライジングサンR』で、一気はついに災害救助の現場に向かうわけですが、冒頭で予告されているように「火山噴火」というケースをモチーフにしたのはなぜだったのでしょうか。
藤原:もともとは東日本大震災があって、そこで活躍する自衛官の姿を伝えたかったのですが、申し上げたように『ライジングサン』の連載開始時点では、それはしたくありませんでした。少し時間が経って『R』になったときに、災害現場での活躍を描くということは決まっていて、それなら大きな震災を描くのかと考えるなかで、あまり広域の災害になると描くべきポイントが絞れなくなると思ったんです。火山であれば日本においてはリアリティがありますし、「山」というひとつのフィールドで物語を構成することができる。大地震では、目の前の人を救うことができても俯瞰して全体を見た時にどうやっても“ハッピーエンド”にはなりませんから、クライマックスの作り方が難しいだろうなと。
ーー『ライジングサンR』のネタバレは控えますが、エンディングは非常にエンタメとしてのフックがありながら、かつリアリティがあったと思います。災害救助で考えられないような成果を上げて、賞賛されるという結末も漫画としてはあり得たと思いますが、登場人物のそれぞれがある意味では自分の無力さを痛感しながら、学びを得て前に進んでいますね。
藤原:そこも元自衛官として考えるリアルさだと思います。人命救助は仕事だから褒められることではない、という認識ですし、一気自身もチヤホヤされるためにやっているわけではなくて。だからこそ、めちゃくちゃカタルシスのあるエンディングではなくてスッキリしない方もいるかもしれませんが(笑)。
ーー「物語としてきれいなオチがついた!」ではなく、キャラクターたちの人生がちゃんと今後も続いていく、という想像が広がるエンディングだったので、納得感がありました。
藤原:そう捉えてもらえると嬉しいです。僕としても、彼らは今後も生き続けてくれるという感覚です。
ーー『R』の最終話で無印の『ライジングサン』の第一話がフラッシュバックしたり、序盤に登場した「一人では見られない景色がある」という言葉が活きていたり、もともと原作があってもおかしくないと思えるほど、一貫性がありました。
藤原:創作にもいろいろなやり方があると思いますが、僕は準備の段階でラストシーンを思い浮かべるタイプなんです。ただ、その時々で伝えたいこと、描きたいことは出てきますし、そこで想定したラストに向けて物語の道筋を再構築していく、という感覚でした。とはいえ、全てが計算通りというわけでもなくて、最後まで整合性が取れているのは偶然でもありますし、一気が最後まで主人公としてきちんと存在していたから、というのも大きいかもしれませんね。
ーーシリーズ全体を通して、読者の反響で印象に残っているものはありますか。現役の自衛官からもいろいろな感想が届いたと思うのですが。
藤原:一年くらい前に、地元の自衛隊大阪地方協力本部にお邪魔する機会があって、自衛官時代の同期からこんな話を聞きました。『ライジングサン』を読んで、「こういう選択肢もあるのか」と気づいて、入隊の応募をしてきた20歳の子がいると。芸人のやす子さんもそうですが、自衛隊には児童養護施設出身の人が少なくないんです。その子も18歳で施設を出てからおじさんの家に仮住まいしていたけれど針のむしろで、犯罪に走ることを本気で考えるほど追い込まれていたと。そんななかで『ライジングサン』に出会って、自分は体力があるし、衣食住も保証されて給料ももらえて、人のためになれる自衛隊という選択肢を知って、実際に応募して、晴れて自衛官になったというんです。「お前の漫画、役に立ってるぞ」って同期に言われた時には涙が出ました。自衛隊にはそういう社会のセーフティネットになっている面があって、彼の人生の手助けを少しでもできたなら本当によかったなと思いました。
ーーひとりの青年の人生を変えたわけですね。自衛隊に入隊する、ということはなくても、一気のように情熱を持て余していたり、また夢に向かって努力している多くの人たちが『ライジングサン』に励まされたと思います。
藤原:最初の方は自分で読み返しても拙い部分が多々あり恥ずかしいのですが、この作品は面白いんじゃないかと思って、最後まで伴走していただいたファンの皆様には、本当に感謝しかありません。タイトルシリーズとしての『ライジングサン』は一旦ここで完結となりますが、実はいま『自衛官』が出てくる別の物語を準備しています。次回作でも楽しんでいただけるよう頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします!
■書誌情報
『ライジングサンR(18)』
著者:藤原さとし
価格:748円
発売日:2025年5月29日
出版社:双葉社























