【漫画】「“やっちゃいけないこと”が青春でしょ」高校生男女の衝動を描く問題作『青春爆走!』研そうげんインタビュー

『青春爆走!』研そうげんインタビュー

 高校デビューに失敗しありあまる性欲を持て余す日暮まるお。そんなある日、密かに想いを寄せる女子・多部さんの言葉に導かれ、自分の欲望に忠実な“青春”を始めることを決意し、青春サークルを立ち上げる。

 そんな高校生男女が織りなすインモラルでアブない青春を描いた『青春爆走!』。あの頃やりたかったこと、弾けたかった瞬間が、今ここに現実となって描かれる。誰もが心の中で燻らせてきた、若い頃の衝動が鮮明に蘇り、きっとあなたの心にも火をつけるはずだ。

 今回は、最新3巻の発売を記念して『青春爆走!』の作者・研そうげん氏にインタビューを敢行。創作秘話からご自身の“青春”まで、じっくり話を伺った。(ちゃんめい)

『青春爆走!』第1話を試し読み

「自分のイケてなかった青春」を主人公に重ねて描く

『青春爆走!(1)』

――まずは本作の着想のきっかけを教えてください。

研そうげん(以下、研):映画「チワワちゃん」を観たことが大きかったです。この作品を通して「若者の群像劇ってこんなふうに描いてもいいんだ」と感じて、そこから数年かけて固めていきました。それともう一つ。どこか自分のイケてなかった青春時代を昇華したいという思いもあって、前に連載していた『中野ブギウギ』の頃から、すでに『青春爆走!』の種のようなものは芽生えていました。

――「自分のイケてなかった青春時代」という言葉が気になったのですが、研先生はどのような青春時代を過ごされたのでしょうか。

研:中学の頃は美術部と合唱団を掛け持ちするなど、人との関わりがすごく多かったんですよ。でも高校に入ってからは、そういう人との関わりがぱったりとなくなってしまって、いわゆる“高校の青春”みたいなものは全く経験してこなかったんです。そこにちょっとしたコンプレックスみたいなものがあって、その思いが作品につながっていきました。主人公・まるおには、まさにその“イケてなかった頃”のモヤモヤした気持ちを重ねています。

――中学までは積極的に部活動にも参加されていたのに、高校で一体何が……?

研:今思えば、僕がめちゃくちゃいじけてるだけなんですけど(笑)中学の時の友達をずっと大切にしていたかったんです。実は高校に上がったとき、同じ中学の人たちが全くいなくなってしまって。だからといって、高校で新しく友達を“上書き”するのは嫌だなと思ったんです。そんな気持ちでどんどん孤立していきましたね。ちょうどその頃から漫画を本格的に描き始めたので、部活に入る時間もなくて。

漫画家・研そうげんの原点、影響を受けた作品とは?

――高校生の頃、漫画を本格的に描き始めたとのことですが、それ以前から漫画を描いていたんですか?

研:そうですね。自由帳に落書きする程度であれば小学生の頃からやっていて、中学1年生くらいから本格的に漫画賞に出すようになりました。高校の時にデジタル環境が整ったので、そこからはさらに真剣に「狙いに行くか」と思うようになった感じですね。

――お若い頃から漫画賞に応募したり、作画環境を整えるなど、非常に現実的に、そして確実に漫画家の道を模索していたように感じます。その道に詳しい方が身近にいらっしゃったのでしょうか?

研:僕らの世代では、ちょうど『バクマン。』がめちゃくちゃ流行っていた時期があって。漫画家を目指す人たちは、みんなそれを読んで「持ち込みってこうするんだ」みたいなことをふわっと知っていたんですよね。だから、『バクマン。』を読んで真似したっていう感じです。

――なるほど。他に影響を受けた作品や作家さんについてもぜひ教えてください。

研:最初に絵を描くようになったきっかけは鳥山明先生の『ドラゴンボール』です。そこからジャンプ系の作品をいろいろ読むようになって、その後に出会ったのが、あずまきよひこ先生の『よつばと!』。この作品を読んだときに“自分の目指す場所”みたいなものが決まったように思います。

――目指す場所が決まったというのは、具体的にどんな意味だったのでしょうか。

研:登場人物たちのリアルさというか、本当にその世界で生きているようなキャラクター作りに惹かれました。背景美術も含めて、すべてが自分の中で「これだ」と思えるくらいしっくりきたんです。『よつばと!』はずっと目標にしている作品ですし、特にアナログ感や若干の“緩さ”みたいな部分にはかなり影響を受けています。

 僕は全部デジタルで描いているんですが、あまりにも整いすぎると“絵の隙”みたいなものがなくなってしまう気がして。だから、わざと手ぶれ補正を切って少しブレのある線にしてみたり、意図的にアナログっぽさを残しているんです。きれいすぎない、ちょっとした“汚さ”というか……。そういう部分に共鳴してくれる人がいたら嬉しいですね。

作品に命を吹き込む、インスピレーションの源

『青春爆走!(2)』

――作中では、登場人物たちのリアルな感情の揺れが印象的ですが、執筆中は何がインスピレーションとなっているのでしょうか。

研:少年漫画からの影響が結構大きいと思います。特に『呪術廻戦』が好きで、例えば新キャラが登場して急に流れがガラッと変わるみたいな展開とか、そういうのは無意識に取り入れている気がします。

――『呪術廻戦』といえば、単行本のあとがきでもパロディーとして登場していましたね。

研:そうなんですよ(笑)『呪術廻戦』大好きなんです。見開きを多用したり、大ゴマを使って迫力を出すなど、そういった漫画技法もすごく影響を受けています。ただ、ストーリー展開に関しては、正直けっこう感覚でやっている部分が大きくて……。

――なるほど。特にインモラルな展開に関しては、アイデア段階を含め、辿り着くまでが難しそうな印象を受けます。

研:展開に関しては、ドラッグ関連の情報を扱ったYouTubeの動画を見たり、パパ活に関する情報を調べたり。実際の社会の裏側からインスピレーションを得て、どの部分が物語に当てはまるかを考えながら描いています。

 あと、僕はロックバンドが大好きなので、その歌詞や曲の雰囲気から気づかされることも多いです。例えば、「Age Factory」というバンドは青春をテーマにした歌詞が多いので、そういった部分から影響を受けたり。また、ニューメタルというジャンルにも触発されています。2000年代に登場した音楽ジャンルなんですが、歌詞が非常に暗いことが特徴で、そのような感情を作品に反映させることもあります。

――既刊の中で、特に印象に残っているシーンやお気に入りのシーンを挙げるとしたらいかがですか?

研:7話でまるおと多部さんが手を繋いで帰るシーンです。このネームを描いた時、自分でも少し涙ぐんでしまうほど、満足のいくものが描けたと感じました。それまではまるお対してご褒美みたいなものを与えてこず、辛いシーンばかりが続いてしまった。だから、このシーンでは一旦“青春らしい青春”を体験させてあげたいと思ったんです。また、読者にもこういうホッとできる一瞬を見せた方が良いのかなと思って入れたシーンでもあります。

研:ところが、担当編集の反応があまり良くなくて、ちょっとびっくりしたというのも含めて思い出に残っていますね(笑)。『青春爆走!』っぽくないというのが担当編集の当時の感想だったようですが、後々通しで読むとこのシーンがあって良かったとのことです。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる