杉江松恋の新鋭作家ハンティング 人肉食、吸血鬼、元王女の殺し屋……新人らしからぬ技量で読ませる『リストランテ・ヴァンピーリ』

人探しから始まる展開は一人称私立探偵小説の定石だ。個人の視点だから見えるものが制限される。それが謎を生み出す原因になっているのだが、この形式はうまく使われないと物語をわかりにくくしてしまう。作者は事態の展開を速し、オズヴァルドの語りを少し未来からの回想形式にすることで混乱を回避した。「あんたは信じちゃくれないだろうが、おれは吸血鬼に会ったんだぜ」という一文で小説は始まる。どこかの時点で誰かに語っているものとして叙述は進められていくのだ。回想だから、読者は目の前で起きていることの少し先をオズヴァルドから告げられることもある。たとえば第一章で、〈オンヴレッド〉で晩餐会が開かれることになり、オズヴァルドたちはその準備を始める。章の終わりに置かれているのは「ただし、それは最初の客が店に着いてからおれの足が千切れるまでの二時間半だけの話だ」という一文である。足が千切れるって。このような幕切れの技法で作者は読者の心を掴んでくる。
物語が進むうちに、オズヴァルドという主人公に対する読者の関心は高まっていくはずだ。現在は解体師という怪しい仕事に就いている彼には、どうやら人には言いたくない過去があるらしい、ということがわかるのである。何段階かに分けてそれは明かされる。そのたびに少しずつオズヴァルドに対する認識が改まり、最後には彼の横に立って肩を抱いているような、抱かれているような気持ちになっていくはずだ。キャラクターにしっかりとした設定をすること、情報量を制御しながらそれを語って読者の興味を惹くことが、この作者は抜群に巧い。新人らしからぬ技量だ。
キャラクターの属性は、ただつければいいというものではない。それによって物語が動かされなければ意味がないのだ。そのことを作者はよく弁えている。一例が、エヴェリスのある個人的な動機だ。彼女には一つ弱点があり、そのためにオズヴァルドに行動を読まれることになる。この弱点は、エヴェリスの冷徹な性格に、一点の可愛げを与えてもいる。キャラクター造形として完璧である。キャラクターの出し入れにも特徴があり、必要とされるキャラクターを舞台の中央から退かせて他の登場人物に探させるなど、常に誰かが動き回っている状態に小説がなっている。動の小説なのである。
最初はばたばたと動きの多いスリラーにしか見えない小説だが、物語の輪郭が見え始めるといったい何が起きているのかという関心で読む手が止まらなくなる。謎解きを主にする内容ではないが、ぴたりぴたりと物語の部品が嵌まっていくと、最後に残った空隙が何なのかを知りたくなるのである。あ、そういうことなのか、という納得が最後にあって、大きな満足感と共に読み終えた。これ、デビュー作としては満点をつけられる出来なのではないだろうか。
世に吸血鬼好きは多いと思う。そういう方の嗜好も間違いなく満足させてくれるはずなので、ぜひお試しを。二礼樹、覚えておいて損のない名前である。























