『わたしの幸せな結婚』以外も豊作! 『よめぼく』森田碧の新刊など注目のライト文芸が続々

嵯峨景子レビュー 音楽小説に猟奇ホラーも

顎木あくみ『わたしの幸せな結婚 九』(富士見L文庫)

 実写映画化やテレビアニメなどのメディアミックスも大成功をおさめ、和風ファンタジーに大正ブームを巻き起こしている人気作の最新刊。

 異能の名家・斎森家に生まれながら見鬼の才がない美世は、継母たちから虐げられて育ち、使用人のような扱いを受けている。美世は家を追い出されるように、冷酷なエリート軍人の久堂清霞に嫁がされた。当初は冷たくあたる清霞だが、不遇な境遇にありながらも健気さを失わない美世に少しずつ心を動かされ、やがては愛するようになる。愛されることで美世は少しずつ強くなり、さらには母方の特異な能力・薄刃の力も目覚め、異能をめぐる戦いに巻き込まれていくのであった。

 9巻では新婚旅行を兼ねて二人が訪れた旧都を舞台に、久堂家の本家・宮小路家で起こる事件を描く。ユージンと名乗る金髪碧眼の謎の男が美世にまとわりつき、そこに世を騒がせて帝国を危機に陥らせた集団・異能心教も絡んでいく。薄刃の力をめぐる陰謀の中で立ち回る美世の姿と、以前よりも一層ストレートに愛情表現をするようになった清霞の姿は要注目。ユージンに言い寄られる美世に対して独占欲を発揮する場面など、清霞と美世の仲睦まじいエピソードが満載の糖度の高い一冊である。

仲村つばき『代筆屋アビゲイル・オルコットの事件記録 ホワイトチャペル連続殺人』(集英社オレンジ文庫)

 時は19世紀末、ヴィクトリア朝の英国。生家を出奔した変わり者の伯爵令嬢アビゲイルは治安の悪いロンドン下町で暮らし、代筆屋で生計を立てている。ある日、客のひとりだった娼婦のジェーンが惨殺死体で発見された。ジェーンは売春婦を残虐な手法で次々と殺し、ロンドンを震撼させている恐ろしい「切り裂きジャック」の5人目の被害者ではなかと囁かれる。

 やがて、ジェーンの元雇い主だというエドマンド・フリートウッドがアビゲイルの元を訪れる。伯爵家の嫡男であるエドマンドは、メイドだったジェーンに盗まれた書類を取り戻そうとしていた。アビゲイルはエドマンドを一度は切り裂きジャックの容疑者にしてしまった罪悪感と、この事件を解決すれば有名になって仕事も安定するだろうという打算から、彼に協力を申し出てジェーンの足取りを探り始めるのだった。

 アビゲイルは貴族という恵まれた身分に生まれながら没落した家を飛び出し、手紙を書く技術を武器に職業婦人としてたくましく生きている。深窓の令嬢らしからぬ行動力や、陰惨な事件にも挑む旺盛な好奇心、さらには事件を利用しようとするしたたかな一面も持ち合わせた、チャーミングなヒロインだ。当初は鼻持ちならないエドマンドも、物語が進むにつれて思いがけない姿をみせていく。イーストエンドを中心とした下町の風俗描写も魅力的な、ヴィクトリアンラブミステリーだ。

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