大河ドラマ『べらぼう』とあわせて読みたい! 江戸時代後期のベストセラー誕生までの物語『雪夢往来』

江戸後期ベストセラー誕生物語『雪夢往来』

 それにしても40年というのは、なかなかの年月である。そのあいだには、世の中の変化や流行の変化はもちろん、それぞれの家庭にも、冠婚葬祭、さまざまな変化が訪れる。かつての若者は年を重ね、なかにはこの世を去るものだっているだろう。それは、雪国で暮らす儀三治にとっても、同じことである。雪深い越後の地で、家業のことはもちろん、家庭のことにも気を配りながら、せわしない日々を過ごしている彼は、ふとした瞬間に自問自答し続けているのだった。自分にとって「書く/描く」ことは、果たしてどんなことなのか。それを世に出したいと願うのは、自分のわがままなのか。少なくとも、何かを犠牲にしてまでやることなのか。そんな彼が、そろそろ老境に差し掛かろうとしている頃、ついに江戸からひとりの男が彼のもとを訪ねてくる。その男は、果たして何者なのか。そして、その男に儀三治は、雪国のどんな景色を見せ、心のままに何を率直に語るのだろうか。

 時代は異なれど「小説家」という同業者だからこそ、ある種の「共感」をもって描くことのできる切実なリアリズムが、きっと大いにあるのだろう。「書くこと」の純粋な喜びと、それをめぐる因果と複雑に絡まり合った人間模様。それを、どの立場にも深く寄り添いながら、ありありと描き出してゆく本作『雪夢往来』は、果ては彼らの「人生」そのものを、鮮やかに照射してゆくのだった。「ためらっておってはいかんのですな」「ああ、人が生きる刻には限りがあるがゆえ」。読後感の爽やかさと共に、いつまでもずっと心に残るような一冊だった。

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