死者を操る17歳の少女、独裁国家の内戦でどんな選択をした? 東山彰良『邪行のビビウ』が描き出す独創的な世界
もうひとつ注目したいのが、ワンダが日本のマンガ好きだという設定だ。これを使って、リアルに対するフィクションの力を表現しているのである。だが、マンガのなかではどんな夢もかなうと若い頃に思っていたワンダも、今では〝現実はマンガじゃない〟と認識している。圧倒的なリアルの前に、フィクションの力は、あまりにも小さい。それでもワンダとビビウが絶体絶命の窮地に陥ったときに示された、ちっぽけなフィクションの力は輝いている。この場面には、激しく胸を揺さぶられた。
人類は愚行を繰り返してきた、そしてこれからも繰り返す。だから、ここに描き出された国家と国民の姿は、けして他人事ではない。それを理解したうえで、どんな未来に歩いていくのか。邪行ビビウの選択を、しっかりと受け止め、考えてみたい。