小説『葬送のフリーレン』で描かれる真相 断頭台のアウラはフリーレンと再戦するまで何をしていたのか? 

小説『葬送のフリーレン』レビュー

 フェルンの修業時代が描かれているのは「第1話 やすらぎの日々」。崖の上にある一番岩を撃ち抜けるようになれば一人前と言われてから、日々の鍛錬に勤しみ続けたり、食事の時にブロッコリーを除けるハイターを叱ったりする姿は、フリーレンと同行するようになってからのフェルンと変わらない。三つ子の魂百までという言葉が思い浮かぶ。

 ただ、風邪で寝込んだハイターのために薬草を取って来ようとして道に迷って、心配をかけてしまったと悩むフェルンに、ハイターはハイターでフェルンから生きる活力をもらっていると明かす関係は、フリーレンとの間にはないものだ。ハイターと街に行った時、赤いリボンを買ってもらって嬉しがるフェルンの感情も、シュタルクから何かをプレゼントされた時とは少し違う。フリーレンとシュタルクほどには語られていない、フェルンとハイターの絆を確かめられる小説だ。

 「第2話 英雄になった日」でも、修行中にケンカをしてアイゼンのところを飛び出したシュタルクに対して、アイゼンが何を思っていたかが分かる。決して見放したわけではなかったとは。無骨なアイゼンの優しさに触れられる。「第3話 二人なら」では、フリーレンやフェルンといっしょに一級魔法使い試験に臨んだラヴィーネとカンネが、まだ魔法学校に通っていた頃からお互いを大切に感じていたことと、そして意外とも言える力を秘めていたことが改めて示される。当時からカンネの髪の毛をラヴィーネが掴んで引っ張っていたことも。

 そして「第5話 葬送」。タイトルにも使われている“葬送”という言葉に呼応するように、フリーレンと同じ馬車に乗っている師匠のフランメやヒンメル、ハイターが次々に去って行くという寂しいシーンが登場する。誰よりも長く生きるエルフならではの離別を表したものだが、一方でそんなフリーレンに新しい出会いが訪れることも示唆される。たとえどれだけの仲間を見送っても、新しい出会いが待っていることを感じたからこそ、落ち込むことも虚ろになることもなく歩み続けられる。フリーレンという存在を通して、人の思いや営みが繋がっていることを感じられる小説だ。

 今回はフリーレンをはじめフェルン、シュタルク、アウラ、ラヴィーネにカンネといったところが登場し、一部フランメについても語られたが、『葬送のフリーレン』にはまだまだ登場するキャラクターがいて、世界も広がっている。小説版がこれからも刊行されるとするなら、一級魔法使い試験に登場した魔法使いたちのそれまでを知りたいし、魔族ではアウラに並ぶ人気を持つ「黄金のマハト」についてももっと知りたい気がする。

 何より『葬送のフリーレン』という作品を通して、太い柱とも流れる水脈ともなっている勇者ヒンメルのそれまでも、それからもまだ語られていない。原作の漫画でも語られていないことだけに、小説という形でスピンオフのように綴られることはないかもしれないが、せめて老いぼれてしまった姿でも、多くから慕われていたヒンメルの日々がどのようなものだったのかは、読んでみたいものだ。

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