筒井康隆『自伝』には“答え合わせ”の愉悦があるーー連載第1回から連想するいくつかの自伝的作品

筒井康隆『自伝』を読み解く
筒井康隆『漂流 本から本へ』(朝日新聞出版)

 さらには『漂流 本から本へ』(朝日新聞出版、2011年)も挙げることができるだろう。これは朝日新聞での連載エッセイをまとめた一冊で、筒井自身が幼少期より読んできた本を振り返っていくという内容。帯には「書評的自伝」と記されている。なお、講談社文庫で文庫化された際には『読書の極意と掟』と改題され、こちらの帯には「自伝的読書遍歴」と書かれていた。取り上げられている本は、田河水泡『のらくろ』から始まり、フロイド『精神分析入門』、ヘミングウェイ『日はまた昇る』、ドノソ『夜のみだらな鳥』など、各時期の筒井作品に多大な影響を及ぼしてきた書物がずらりと並ぶ。いわばメイキング・オブ・筒井康隆であると同時に、ブックレビューという手法で“自伝”にアプローチした作品ともいえる。

 こうした“自伝”的な作品群のほか、一見関係のないエッセイのなかに筒井の回想が書かれていることはよくあるし、自筆ではないインタビュー記事なども含めれば、筒井の半生に触れられるコンテンツは他にもたくさんあるだろう。そうしたものをこれまで浴び続けてきたツツイストにとって、今回の『自伝』にはある種“答え合わせ”的な愉悦が認められる。

 例を挙げると、筒井家の向かいに住んでいた幼なじみの“ブーちゃん”についてはこれまでに何度か触れられていたが(前述『十五歳までの名詞による自叙伝』にも0-1歳の欄に書かれている)、今回もやはり出てきたのが微笑ましくもある。また、親戚である“田宮のお祖父ちゃん”が長篇『わたしのグランパ』の主人公のモデルだと明かされていたり、あるいは、筒井家で生まれた仔猫を母親に「捨ててきて」と命じられた筒井少年が近所の股ヶ池に放り投げていたという記憶が短篇『池猫』のモチーフになっている、というのも興味深いエピソードだ。

 第1回目は11歳までだったが、今後連載が進むにつれて、映画/演劇青年だった学生の頃、小説家デビュー前のサラリーマンの頃、デビュー後の同輩の小説家との交流がそのまま日本SF史の黎明期になる頃など、各時代でどんな記述が待っているのか、今から胸が躍動する。この連載をリアルタイムで追うことのできる喜びに感謝したい。

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