「LINEマンガ」縦読み&フルカラーの国産webtoonからヒット続々 担当者に聞く、市場動向とトレンド分析

 縦読み&フルカラーの新たなマンガ「webtoon」が好調だ。『喧嘩独学』や『入学傭兵』、『再婚承認を要求します』に『肝臓を奪われた妻』など韓国から多くのヒット作が届き、アニメにドラマと映像化が相次いでいる。

大ヒットとなっている『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』。

 そんななか、いま大きく盛り上がりつつあるのが国産webtoonである。「LINEマンガ」オリジナルの『先輩はおとこのこ』はすでにグローバルな人気を獲得しており、テレビアニメの放送が2024年7月に迫る。そして、日本のデジタルコミックエージェンシー・ナンバーナインの第一弾作品である『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』は、LINEマンガにおける2024年1月の月間販売金額が1億2000万円を達成した。

  現在世界のトレンドになっているwebtoonというシーンで、日本の作品は今後どう伸びていくのか。国産webtoonの展開に力を入れる「LINEマンガ」の作品ソーシング部門部長の三野氏と広報部門部長・山下氏とに現在の状況と今後の展望について聞いた。(編集部)

■国産webtoonの制作スタジオが増加中

――これまで韓国作品のヒットが多かったwebtoonですが、日本でも制作環境が拡充してきており、ヒット作が続々と登場しています。現在のシーンをどう捉えていますか。

「LINEマンガ」オリジナル作品で、アニメ化も決定している『先輩はおとこのこ』。

山下:前提として、2年ほど前から少しずつ国産webtoonの制作スタジオが増えはじめました。もともと横読み/コマ割りのマンガを制作していた出版社や制作会社、ゲーム関連企業などを中心に、いまも新規参入が続いており、ここ1年を振り返ってみても国産webtoonの作品が多く誕生しています。「LINEマンガ」でもインディーズ作品としてスタートし、アニメ化が決定した『先輩はおとこのこ』のようなヒット作が生まれ、2023年の後半からは特に盛り上がっています。売り上げ、作品数ともに、2024年は本格的に伸びていく年になると予想しています。

三野:「2023年は国産webtoonが本格化した」ともいわれており、「LINEマンガ」のランキングでも、多くの国産作品がランクインするようになってきました。なかでも、2024年1月にはナンバーナインさんの『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』の売り上げが1億2000万円を達成。こうした国産webtoon作品が今後ますます増えるように、「LINEマンガ」としてもさまざまに施策を進めていきたいと考えています。

――作家のサポートやインディーズの施策も含め、「LINEマンガ」は国産webtoonのパイオニア的存在だと思いますが、どのようなきっかけで挑戦に至ったのでしょうか。

山下:現在、「LINEマンガ」とグループサービスはグローバル全体でwebtoon配信においてナンバーワンのプラットフォームであり、そのノウハウを生かして国内の制作スタジオさんと一緒に作品をつくるようになったのは、自然な流れでした。国内作品だけを特別扱いしているわけではないんです。

三野:韓国の作品だから、日本の作品だから、という境目はなく、あくまで作品の内容、ユーザーとの相性などを重視して作品をプッシュしています。国内外問わず、切磋琢磨しながらwebtoonというシーンそのものを盛り上げていこうと。

■韓国と比較するとクリエイターの数が少ない

LINEマンガはクリエイターに対して厚くサポートをすることが特長の一つ。さまざまにクリエイターファーストの施策を行なっている。

――その一方で、これまで親しまれてきた横読みマンガとwebtoonには、表現のスタイルだけでなく、マーケティングな視点や分業による効率化など、さまざまな違いがあると思います。webtoonならではの課題や難しさはありますか。

三野:「webtoonを描きたい」という作家さんは近年増加していると感じますが、先行している韓国と比較するとまだ多くないのが日本の現状です。いい作品をどんどんつくれる環境を整え、シーンの活性化につなげるというのは、プラットフォーマーとしての使命だと感じています。

――クリエイター目線で考えると、競合がまだ少ないのはチャンスかもしれませんね。webtoonの制作にかかわることを選択肢に入れているクリエイターに対して、「LINEマンガ」としてアドバイスがあれば教えてください。

山下:制作に関してはチーム体制で分業する現場が多くなっていますので、シナリオをつくるのが得意な方、キャラクターデザインが得意な方、色を塗るのが得意な方といったように、自分の得意分野を活かしやすいのは、クリエイターさんにぜひお伝えしたい最初のメッセージかなと思います。また「LINEマンガ」の場合、グローバル展開のチャンスがある、というのも大きいところです。

  現在大ヒットしている『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』も、今後より世界で注目される可能性を秘めていますし、『先輩はおとこのこ』はすでにグローバル展開中です。スマホさえあればスクロールするだけで誰でも簡単に読めるwebtoonは、横読みのマンガ以上に世界で受け入れられやすく、ヒットする可能性は大きいと考えています。

――横読みマンガの文化は素晴らしいものですが、例えば、出版社に持ち込んで、連載になって、アニメになって、海外に行って……という流れを考えると、webtoonはグローバルに展開されるまでのスピード感がすごいなと思います。

山下:今少しずつ結果が出ている段階で、これから『先輩はおとこのこ』のような作品がさらにいくつか出てくることで、ほかの作品も後に続きやすくなると思います。

■日本のマンガの強みとは?

韓国発のwebtoonで世界的なヒットを記録し、現在アニメ放送中の『喧嘩独学』

――日本はマンガ大国ですが、webtoonにはまた別の文脈があります。世界に向けてコンテンツを届ける上で、日本の強みはありそうですか。

三野:現状では、ほかの国との作品の違いは、実はそんなに大きくないと考えています。ただ、韓国のwebtoonのトレンドを抑えつつも、日本マンガならではのドラマ性やキャラクターの魅力を加えた作品が登場してきているとは感じています。例えば、リアルさを追求している作品が多い印象があって。もう少し噛み砕くと、リアルな物語で、日頃感じている不満を払拭するカタルシスがある作品が多く、例えば不倫を扱った作品などは、読者の方々がコメント欄に熱心な言葉を描き込まれていて、掲示板のように盛り上がっています。

山下:もう一つ、メディアミックスの観点からお話しすると、韓国においてはアニメはまだ「子どもが観るもの」というイメージが強いそうで、ドラマ化を目指す傾向があります。日本では子どもはもちろん、幅広い層が楽しむものですから、アニメも含めIP化しやすい点は特長といえると思います。そういうこともあってか、国産webtoonでは主人公だけでなく、周りのキャラクターも魅力的な作品が増えていますね。

『夫を社会的に抹殺する5つの方法 』(制作:GIGATOON Studio)

三野:現在、マンガ業界だけではなく、映像や音楽などの幅広いエンターテインメント業界からwebtoonに参入する企業が増えています。これもメディアミックスが強く意識されているということだと思います。実際、『夫を社会的に抹殺する5つの方法 』(制作:GIGATOON Studio)や『余命3ヶ月のサレ夫』(制作:ソラジマ)をはじめ、ドラマ化のお話がどんどん出ています。webtoonを起点にしたメディアミックスは、今後もっと活発化していくと思います。

――逆に考えると、日本が豊富にかかえている既存のIPを使ったwebtoonの展開も考えられそうでしょうか?

三野:IPももちろんですが、横読みのマンガで成功された作家さんたちが、webtoonならではの表現を追求して作品をつくり込んでいく流れがもっと生まれていくと、面白いことになりそうです。

■ジャンルの幅はどんどんと広がっている

――人気作家の参入は、今後加速していくかもしれませんね。webtoonには、ロマンスファンタジーや異世界系のアクションファンタジーを題材にした作品、あるいはドロドロの人間関係や復讐を描くドラマが多いように思いますが、注目しているジャンルはありますか。

三野:おっしゃるとおりファンタジー系の作品、恋愛モノも人気です。一方で、「LINEマンガ」としては常に新しいジャンルを広げていきたいと考えており、webtoonの臨場感や迫力を生かしたスポーツモノ、ミステリーやホラーも少しずつ増えているので、注目してもらえたら面白いと思います。

山下:作品の幅は確実に広がっており、制作スタジオさんがチャレンジされている状況で、本当に面白い作品がたくさんあるんです。まだwebtoonに触れたことがない方も、ぜひ一度チェックしていただきたいです。

■webtoonビギナーが読むべき作品は?

『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』はwebtoonをこれから読んでみたい方にもおすすめの作品。

――さくさく読める分「深みがない」というイメージを持って敬遠しているマンガ好きの方もまだ少なくなさそうです。webtoonビギナーはどんな作品から読めばいいでしょう?

三野:冒頭にもお話しした『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』や『俺だけ最強超越者~全世界のチート師匠に認められた~』(制作:Studio No.9)は魅力的なキャラクターやドラマチックな展開で人気が高まっている注目作です。また、ロマンスファンタジー系だと『かたわれ令嬢が男装する理由』(制作:ソラジマ)、「せっかく令嬢に憑依したのにすでにやらかした後でした!」(制作:booklistaSTUDIO)、不倫ものだとドラマ化している作品はもちろん『夫の家庭を壊すまで』(HykeComic)なども人気ですし、バトル・アクションだと『キラー・ゴールドフィッシュ』(制作:コルク)などもおもしろいですよ。

――まさに急激な変化の中にある国産webtoonというシーンですが、今後さらに拡充していきそうでしょうか。

三野:そうですね。短期的にいうと、ユーザー人口が増えている中で、作品数もより増えて、盛り上がりを見せていくだろうと思います。長期的には、webtoonを原作としてメディア化する作品がもっと増えると思います。日常生活の中でwebtoonに触れる機会がますます増えていくと思いますし、グローバルな観点からも、日本のwebtoonはすごく注目を集めているので、世界で広がっていく作品が増えていくと考えています。

山下:同時に、国産webtoonの制作に関わる方ももっと増えていく流れになればいいなと思っています。そのため、「LINEマンガ」としてもユーザーにたくさんの作品を届けるだけでなく、制作スタジオさんとの協業、「LINE MANGA WEBTOON STUDIO」や「LINEマンガ インディーズ」などの取り組みを通してクリエイターの方々の発掘・支援に尽力したいと思います。重要なのは、webtoonが横読みマンガに取って代わるのではなく、一緒に盛り上がっていくことだと考えています。

――そのなかで、「LINEマンガ」が果たすべき役割は大きそうですね。

山下:制作者の皆さんにしっかりメリットを与えられる存在でありたいと考えています。編集、営業ともに社内全体で作品/作家を第一に考え、国産webtoonの可能性も広げていきたいと考えています。

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