知れば知るほど魅了される、成瀬あかりという主人公ーー『成瀬は天下を取りにいく』の続編『成瀬は信じた道をいく』を読む

知れば知るほど魅了される、成瀬あかり

 続く「成瀬慶彦の憂鬱」は、京大を受験する成瀬を、あれこれと心配する父親の心情が、相変わらずの成瀬の行動を絡めて描かれる。第三話「やめたいクレーマー」は、自分のクレーマー気質を持て余している呉間言実が、フレンドマート大津打出浜店でバイトをしている成瀬と出会い、万引き騒動とかかわることになる。そして彼女は成瀬の言動によって、自分を見つめ直すのだ。第四話「コンビーフはうまい」の視点人物は、成瀬と共にびわ湖大津観光大使になった篠原かれん。祖母と母親も観光大使になっており、親子三代の観光大使になることを期待されてきた。しかし己の信じた道しか歩かない成瀬を見ているうちに、自分の人生が祖母と母親にコントロールされていることに気づく。そして彼女も変わっていくのだ。自然と周囲の人々を巻き込み、意識を変えていく成瀬が愉快痛快である。

 さらにラストの「探さないでください」では、スマホ(「コンビーフはうまい」でようやく入手した)を残したまま、成瀬がどこかに行ってしまう。東京に引っ越した島崎が成瀬家を訪ねてきて、そのことを知った。心配した島崎と、いままでの登場人物が集結し、「成瀬捜索班」を結成。だが成瀬の行方は、思いもよらぬところから判明する。久しぶりに登場した島崎と、成瀬のすれ違いドラマが面白い。成瀬の新たな知り合いに嫉妬する島崎の、心の憂さが晴れる結末も楽しい。本書の締めくくり相応しい作品だ。

 知れば知るほど魅了される。誰かに語りたくなる。そんな成瀬は、これからどこに向かうのだろう。いや、どこだろうとついていく。だって既に、彼女の熱烈なファンになっているのだから。

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