「ハルヒ」はじめ時代を彩る名作がズラリ ライトノベルのルーツであり代名詞「スニーカー文庫」35年の足跡

スニーカー文庫の35年

 1986年に実施された「ファンタジーフェア」で、富野由悠季『ファウ・ファウ物物語』や田中芳樹『アルスラーン戦記』が角川文庫から刊行されて好評だったことから、若者向けの小説を角川文庫内の「青帯」として刊行。富野監督による『機動戦士ガンダム』など「ガンダム」関連小説が最初は並んだが、やがて水野良の『ロードス島戦記』が出て、そして「青帯」がレーベル名を変えて「角川スニーカー文庫」となって、1988年8月に登場した。今回話題の35周年という区切りはここから来たものとなる。

 この間、スニーカー文庫は「ガンダム」シリーズや『NG騎士ラムネ&40』をはじめとしたアニメのノベライズを出したり、安井健太郎の『ラグナロク』、深沢美潮『フォーチュン・クエスト』のような骨太のファンタジー小説、そしてSFなどを出したりして、同じく1988年創刊の富士見ファンタジア文庫とともに、ライトノベルの市場を広げてティーンの読者を獲得していった。

 多彩な才能も輩出した。第6回スニーカー大賞を『戦略拠点32098 楽園』(応募名「アルカディア」)で受賞したのが長谷敏司。スニーカー文庫では『円環少女』を刊行して好評を得たが、後に早川書房から『あなたのための物語』を出して第30回日本SF大賞の候補作となり、SFマガジンに発表した短編を収録した『My Humanity』で第35回日本SF大賞を獲得。SF界になくてはならない書き手となった。

『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』

 学園小説大賞からは、2001年に『氷菓』で奨励賞を獲得した米澤穂信が、ミステリの世界で大活躍するようになり、2022年には『黒牢城』で第166回直木賞を受賞した。広い間口を持ったライトノベルが新しい才能を目ざとく見つけて送り出していた。レーベルは違うが、ファミ通エンタテインメント大賞出身で後に直木賞を獲得した桜庭一樹もそんなひとりだ。

 スニーカー大賞は今も続いているが、「涼宮ハルヒシリーズ」や、第2回の大賞を『ジェノサイド・エンジェル 叛逆の神々』で獲得し、後に『トリニティ・ブラッド』のシリーズで熱狂的なファンを得た吉田直のような、ライトノベル全体を引っ張るような才能を送り出していないところが気になる。一方で、『スーパーカブ』やしめさば『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』のように、小説投稿サイト経由の優れた書き手を見つけ出し、送り出している。

 目利きぶりが衰えていないとしたら、コンテスト経由のヒット作もいずれ生まれ、「ハルヒ」ブームに沸いた2000年代後半のような存在感を、今一度示してくれるだろう。

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