宮崎駿『風立ちぬ』堀越二郎のモデルは4人いた? 異端のジブリ主人公はいかにして生まれたのか
『風立ちぬ』二郎の下地となった4人目の人物
戦闘機の開発に携わったという点で、勝次は実在する堀越二郎と似た部分がある。しかしそれだけでなく、堀辰雄との共通点もあり、前妻を結核で失い、自身も結核を患っていた。
宮崎自身、勝次が堀越二郎、堀辰雄と似た境遇であることを語っていたが、その3人を1人のキャラクターとして昇華したのが“二郎”なのだろう。半藤は対談のなかで、激動の時代に生きた両親を理解しようとする試みが『風立ちぬ』ではないかと看破していた。
ただ、二郎のモデルとしてさらにもう1人の人物を重ね合わせることもできる。それは監督である宮崎駿本人だ。
宮崎は作品以外で自分を露出しないタイプの作家で、ストイックな生き様から「職人」にたとえられることが多い。浮世離れした創作へのスタンスは、飛行機の設計に打ち込む二郎の姿に近いのではないだろうか。ちなみに映画で二郎が愛飲していたタバコは、宮崎も好んで吸っていた銘柄の「チェリー」だ。
『風立ちぬ』が公開された際、宮崎は「何度もやめると言ってきたが、今回は本気です」と引退宣言を行った。それは同作が彼自身の人生を集約する作品だったことも関係しているのかもしれない。
引退宣言から約10年後、最新作『君たちはどう生きるか』でカムバックを果たした宮崎。その心境にどんな変化があったのか、あらためて検討する機会が必要だろう。