宮崎駿『風立ちぬ』堀越二郎のモデルは4人いた? 異端のジブリ主人公はいかにして生まれたのか

『風立ちぬ』堀越二郎のモデルは4人いた? 

  個性的なキャラクターが多いスタジオジブリ作品のなかでも、ひときわ異色の雰囲気を漂わせる『風立ちぬ』の主人公・堀越二郎。その人物像は文学者・堀辰雄と航空機技師・堀越二郎の2人がモデルになったとされているが、実はそこにはもっと深い事情が存在した

 『風立ちぬ』で描かれているのは、戦争へと向かう激動の社会に生きた航空技術者・堀越二郎の半生だ。二郎は国家規模の戦闘機開発プロジェクトに抜擢されるが、その一方で妻・菜穂子の重い病が判明。仕事と妻のあいだで揺れ動きつつ、夢の実現に向けて挑戦していく。

  そんな主人公のモデルとなったのは、零式艦上戦闘機(零戦)を設計した実在の人物・堀越二郎。しかし作品のタイトルである『風立ちぬ』は文学者・堀辰雄の自伝的小説を引用したもので、結核を患った恋人というモチーフもこの小説から来ている。

  つまり映画『風立ちぬ』は、堀越二郎と堀辰雄の半生を織り交ぜたフィクションと言えるだろう。実際に宮崎駿は、「堀越二郎と同時代に生きた文学者堀辰雄をごちゃまぜにして、ひとりの主人公“二郎”に仕立てている」と語っていた。

  ところが話はここでは終わらず、堀越二郎の人物像には、宮崎自身のパーソナルな部分も反映されている。2013年に刊行された作家・半藤一利との対談集『半藤一利と宮崎駿の 腰ぬけ愛国談義』では、二郎の人物像に「自分の父親」を混ぜたことを告白していたのだ。

  宮崎の父・勝次は飛行機作りに携わっていた人物で、「宮崎飛行機」という工場の工場長として働き、零戦の風防などのパーツ製造を担っていた。宮崎いわく、父親は「享楽的」な性格だったらしく、戦闘機の制作に携わりながらも社会の動向に関しては他人事で、思春期の頃には口論になったこともあるという。

 『風立ちぬ』の二郎も社会的な責任に思い悩まず、ある種のファンタジーとして飛行機と向き合っている部分があったが、そうした描写は父親の姿に由来するのかもしれない。

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