ネタバレ厳禁で話題沸騰『世界でいちばん透きとおった物語』の凄さとは? ミステリファン必読の快作
本の帯に「ネタバレ厳禁!」と、大きく書いてある。読んでみて納得。なるほど、杉井光の『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮社)は、ネタバレ厳禁といいたくなる作品である。でもなあ、ネタバレ厳禁のアイデアが、一番の読みどころではないか。それを隠したまま、書評を書くのは辛い。ああああああ、どうすればいいんだ! なんて悩んだところでどうにもならないので、まず粗筋を紹介しよう。
物語の主人公は、藤阪燈真という若者だ。父親は宮内彰吾という有名なベストセラー作家。母親の恵美は、大学を出たばかりの二十代の頃、出版社のパーティーで宮内と出会い、男女の関係になった。しかし宮内には妻子がおり、ふたりは不倫の関係である。何年かたって燈真が生れると、母親は宮内と別れフリーランスの校正者となった。女手ひとつで育てられた燈真は、父親と会ったことは一度もない。
そんな燈真は十歳のとき、かなり重い病気にかかり、レーザー光線を使った脳外科手術を受けた。手術は成功したが、本を読んでいると目がちかちかして辛くなるという後遺症が残った。なぜか、PCやスマホの画面で文字を読むのは負担にならない。原因は不明である。とはいえ日常生活に支障はなく、高校を卒業すると書店でアルバイトを始めた。
だが、母親が交通事故で亡くなった。母親の仕事相手である、S社の文芸編集者・深町霧子が紹介してくれた弁護士に、諸々の処理をしてもらうと、バイト生活を続けて今に至っている。母親亡き後も、家に出入りしている霧子に淡い恋心を抱いているが、それを除けば淡々とした日々だ。
ところが燈真が二十歳になったとき、宮内が病気で亡くなり、その一ヶ月後に異母兄の松方朋晃から電話がかかってくる。霧子や宮内の担当編集者も立ち合い、朋晃と会った燈真。異母兄は宮内の遺作が存在する可能性があり、それを捜すよう依頼する。宮内の死が風化する前に本にしたいとのことだ。態度の悪い朋晃は気に喰わないが、払うという金は魅力的。燈真は、宮内が晩年に付き合っていた女性たちを始め、関係者を当たる。やがて遺作が『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルであり、実際に執筆していたことを知った。今時、手書きだったという宮内。ならば原稿がどこかにあるのだろうか。
本書はミステリであり、注目すべき謎は複数ある。まず宮内の遺作だ。最初は原稿があるかどうかも分からないが、燈真が関係者を当たることで、タイトルが分かり、原稿を読んだ人が現れ、ついに在処まで行き着く。その過程で、宮内の遺作に対する、並々ならぬ意欲とこだわりも判明する。いったい宮内は何を書いたのか。燈真の家が荒らされるなどの事件もあり、読者の興味を強く引っ張っていく。