【推しの子】黒川あかねは漫画史に残る天才女優? 北島マヤ、夜凪景、渡辺さらさなど“名優”との比較から考察

※本稿は『【推しの子】』のネタバレを含みます。原作を未読の方はご注意ください。

 大好評のアニメ『【推しの子】』。5月24日放送の第7話で、天才女優・黒川あかねが見せた“演技”が反響を呼んでいる。

 「週刊ヤングジャンプ」&漫画アプリ「少年ジャンプ+」で連載中の『【推しの子】』は、若くしてこの世を去った天才アイドル・星野アイが残した双子の兄妹(アクア/ルビー)が芸能界に入り、事件の真相に迫っていく物語。現在アニメで展開中の「恋愛リアリティーショー編」は、本作の主人公・アクアが参加する恋愛リアリティーショー『今からガチ恋始めます』(今ガチ)で、今後の物語の鍵を握るキャラクターたちが登場している。

 なかでも舞台女優の黒川あかねは、現在進んでいる連載のエピソードでも物語の本筋に深く関わっている重要キャラクターだ。「恋リア編」では、ある事件を起こしながらアクアの機転に助けられた後、“アクアの好みの女性”=星野アイを徹底的にプロファイルし、外部には知り得ない情報にまで到達してしまうという狂気的な“役作り”を見せた。そして第7話のエンディングの直前に披露された“演技”は、声優・石見舞菜香の鬼気迫る名演もあり、SNSで爆発的に拡散する名シーンになった。

 『【推しの子】』は転生モノであり、アイドルモノであり、サスペンスであり、「役者」という存在を描く物語でもある。アクアや元天才子役・有馬かなの演技にも凄みを感じるシーンがあるが、黒川あかねがアイになりきったこのシーンは、多くの原作ファンがハイライトのひとつに数えるだろう、インパクトの大きいものだった。

 これまで人気漫画で描かれてきた「天才女優」のなかでも、成熟し、達観した精神性を持つ主人公の最愛の人を演じ、冷や汗をかかせるようなキャラクターは簡単には思い浮かばず、漫画史上でも指折りの俳優といえるかもしれない。

 漫画に登場する天才女優の象徴的存在といえば、『ガラスの仮面』の北島マヤ。演技については天賦の才を持ちながら、血の滲む努力を重ねるマヤは「役者の到達点」のような存在ともいえるが、「再現性」という意味では、プロファイリング能力に優れた黒川あかねに軍配が上がるかもしれない。

 また、原作者の逮捕を受けて2020年に連載が打ち切られた人気作『アクタージュ act-age』に登場する夜凪景も、漫画ファンが注目する「天才女優」だった。彼女の場合は、役柄に対して自身の過去の体験や感情をリアルに投影し、極めて自然で役に入り込んだ演技を行う「メソッド演技法」を極めており、それゆえに精神をすり減らす“危うい”描写もあった。その点、黒川あかねは“没入型”でありつつ、多くの舞台経験から切り替えのうまさ/客観的思考も身につけており、ポテンシャルはともかく、より完成された俳優と言えそうだ。

 ミュージカルをモチーフにした作品でいえば、『かげきしょうじょ!!』の渡辺さらさも身体能力とコピー能力に優れた天才だ。天真爛漫で“陽”のイメージがあり、天性のスターという意味で、こちらは舞台上のアイに近いかもしれない。よくもわるくも「暴走」の可能性をはらんでおり、その意味では黒川あかねの方が「扱いやすい」俳優であることは間違いないだろう。

 こうして考えていくと、黒川あかねは「主人公」として造形されていないことから、「スター性」や「計算外の爆発」「成長可能性」などが制限されているように思えるが、逆にいえばそのことで悪目立ちをせず、物語に彩りを添えることに成功しているキャラクターに思える。連載で現在進行形のエピソード「映画編」で彼女がどんな演技と活躍を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。

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