【推しの子】黒川あかねが放つ“異彩” 天才だらけの作品の中で光る才能とメタ的な立場を考察

※本稿は『【推しの子】』のネタバレを含みます。原作を未読の方はご注意ください。

 大好評のアニメ『【推しの子】』が「恋愛リアリティーショー編」に突入している。5月17日放送の第6話では、本作の主人公・アクアが参加する恋愛リアリティーショー『今からガチ恋始めます』(今ガチ)で、なかなか“爪痕”を残せない若手女優・黒川あかねの苦悩が描かれた。

 「週刊ヤングジャンプ」&漫画アプリ「少年ジャンプ+」で連載中の『【推しの子】』は、若くしてこの世を去った天才アイドル・星野アイが残した双子の兄妹(アクア/ルビー)が芸能界に入り、事件の真相に迫っていく物語。芸能界/アイドル文化の裏側に迫りながら、SNS・動画配信・インフルエンサーなど、現代的な要素を丁寧に描いた作話も人気のポイントだ。

 そのなかで「恋愛リアリティーショー編」は、ネット上の誹謗中傷や過剰演出などの問題を鋭く取り上げながら、今後の物語の進展に大きくかかわる重要人物が登場する、印象的なエピソードだ。後にアイドルグループ「B小町」に加入するYouTuber「MEMちょ」もそうだが、本稿では、アニメでまだその実力を発揮していない黒川あかねを取り上げたい。

 あかねは自己主張が苦手で、『今ガチ』に参加した当初は目立つことができず、その焦りから空回りして事件を起こしてしまうが、そのなかでアクアとの仲を深め、重要なキャラクターになっていく。アイをはじめ、「天才」と呼ぶべき人物が多く登場する『【推しの子】』のなかでも異彩を放つ存在だ。メタ的に言ってしまえば、その才能で『【推しの子】』という物語の“本筋”に接近しているキャラクターである。

 “没入型”の舞台俳優として天性の才能を持つあかねは、「恋愛リアリティーショー編」において、“アクアの好みの女性”=星野アイを徹底的にプロファイルし、いわば「役作り」をするなかで、「隠し子がいる」という事実にすら到達してしまう。その恐るべき洞察力は時にアクアを超越しており、彼の黒い本心にも触れながら、協力的な立場を取っているのが興味深い。決して悪目立ちをせず、その能力の高さと「天才女優」という立場を生かしながら、物語を推進させていくのだ。

 もうひとつ、準主役級のキャラクターである元天才子役・有馬かなとの関係性も面白い。アクアを巡る恋敵であり、お互いの才能に対して嫉妬と尊敬が入り混じった感情を抱えているふたり。その関係性は、活躍する場面は少なくないものの、アイを“演じて”以降、派手な立ち回りが少ないあかね(彼女の本領である「2.5次元舞台編」でも、有馬かなや鳴嶋メルトの活躍がより強調されていた)の物語上のポジションを支えるものになっており、ある種の「探偵役」のような客観的立場を取らせることにも成功している。

 物語の本筋に深くかかわるほど、幸福な結末が想像しづらくなる『【推しの子】』。真実に近づいている黒川あかねの未来はどうなるのか、アニメで輝かしい才能を発揮する様子を楽しみにしつつ、連載として現在進行中の「映画編」での活躍を見守りたい。

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