【漫画】愛する相手が不老不死だったとき、思いを伝える最適解は? SNS漫画『八重桜の君へ』が描く純愛
人ならざるものでも真っ直ぐに思いをぶつける
――『八重桜の君へ』を制作しようと思った経緯を教えてください。
赤子:編集者さんと作家さんのマッチングサイト『DAYS NEO』で『ヤングマガジン』(講談社)の編集さんに担当希望をもらい、連載に向けて『ちばてつや賞』に応募する作品を一緒に作ることになったことが最初のキッカケです。『八重桜の君へ』以外にもネームは描いていたのですが、そのネームが説教臭い内容になってしまったんですよね。ですので、『八重桜の君へ』に振り切って「とにかくビジュアル重視でセリフの少ない漫画を作るぞ」と思い立って注力しました。
――登場人物はどのように作り上げましたか?
赤子:「人の姿をした人ではない長寿の神or精霊」と「ただの人間」の組み合わせがすごく好きなので、その2人を題材にした話にすることは最初から決めていました。それから「“一途で一生懸命でちょっと抜けたところのある男の子”なら、人ならざるものでも真っ直ぐに思いをぶつけてくれるかな」と思い、まず悠詩のキャラ設定は決まりました。
――花の精はどのように決まっていったのですか?
赤子:実は編集さんとひと悶着あって花の精は女性になりました。というのも、私自身が「人でないものは無性別」というイメージがあり、なんとなく胸もなく男性の身体に近いベースのキャラ設定にしていました。しかし、その当時のネームでは「私、男だけど」というセリフのフォローが何もなくラストまで進むネームだったため、編集さんから「一応青年誌なのでBLはちょっと……」と打診がありました。「確かにそうだ!」と思ってお姉さんに変更したのですが、結果的にはより良い仕上がりとなり、私としても満足できる作品になったと思っています。
――花の精は伝統的であり、現代的なデザインでしたね。
赤子:海外のファッションショーの画像などから着想を得ました。とにかくフリルを描きまくって手首を痛めつけたかったのと、「いろんな貢物をされても心が動かない恰好だけ豪華な花魁」みたいなイメージを表現したくて描きました。
不老不死の人にどう寄り添ったのか
――「人間にはもしもの話 花の精にはいつもの話」「重い思いに私を想い 自分勝手に死んでゆく」など、口に出して読みたくなるようなセリフが多く出てきました。セリフはどのように考えているのですか?
赤子:小学生の時から音読が結構好きで、漫画のセリフも声に出して読むことが多く、「口が気持ちいい文章」に触れるのが好きなんですよね。一番読んでて気持ちいいと思うのは『笑う大天使』(白泉社)などの作者の川原泉先生の作品でした。その影響を受けて、「なんとなくノリが悪いな……」と思うセリフなどは、良いリズムになるように考え直すようにはしています。
――セリフもでしたが、悠詩が急に年老いていた展開も秀逸でした。時間の流れがわからないように意図されているように感じましたが、どのような点に気をつけて描きましたか?
赤子:定点カメラのように桜の周りの出来事しかわからないように描いていたので、そこはこだわりました。また、「ちょっと見ない間に……」という時の流れの感覚もおそらく人間とレベルが違うため、花の精の視点も意識しながら描き進めました。
――「私が少し絶望していただけで…?」とセリフのインパクトがとても大きかったです。どのように不老不死の気持ちに寄り添ったのですか?
赤子:実は2年ほど病気で寝たきりの期間がありました。その間、外の景色や気温は変わっても、自分の見える部屋は一切変わらず動くこともできない、という状態でした。その時にたくさん悩んだのですが、病気が治って思い返すと「2年も悩んでたのか……」と改めて時間の経過に驚いたことがあります。「悩んでいる最中は誰でも時間を忘れ、そればかりにしか目を向けなり、時間や周囲の変化にさえ目がいかなくなるのだな」と感じました。「それがもう何十年も見慣れた景色である花の精なら、悩んでいる間は雪も桜も紅葉も見えなくなるのかな」と想像しながら描きました。
――最後に赤子さんの目標など教えてください!
赤子:商業漫画を描きたいと思いつつ、コンスタントに制作できる体調が整っていないのが現状です。また、商業漫画の制作以外にも、Vtuberさんとの共同企画や、VRoidを使用した3Dの服作りなど、やってみたいことがたくさんあり、どこから手を付けようかと迷ってもいます。「服飾と関係性が好き」という原動力は変わりませんので、漫画も含め、これからも自分自身の世界をこの世に表現していきたいと思っています。今は小さなウサギの赤ちゃんなので、いつか大きなフレミッシュジャイアントになりたいです!