全国各地で漫画賞が増加中 背景にあるのは「地域振興」と「観光PR」を漫画が担う時代
地方で開催される漫画賞が増加!
漫画賞といえば東京の大手出版社が主催するイメージだが、近年、興味深いのが地方で漫画賞を主催する団体が増えていることだ。地方公共団体やNPOが町おこしの一環で行う例が一般的で、12回の歴史がある「いわてマンガ大賞コンテスト」のような、ご当地を題材にした漫画を募集する地域密着型のものが多い。
水木しげる、谷口ジロー、青山剛昌の出身地である鳥取県は、早くから“まんが王国とっとり”を名乗り、漫画を使った町おこしを進めてきた。2月11日には「第11回まんが王国とっとり国際マンガコンテスト」の表彰式が行われたが、世界33か国と地域から、合計967作品の応募があったという。今回は過去最高の応募数とのことで、回を重ねるごとに質量ともに盛り上がりを見せている様子がうかがえる。
鹿児島県でもNPO法人マンガプロジェクト鹿児島が主催する「第9回かごしま漫画クロデミー賞」があり、2月5日に表彰式が行われた。「持続可能な開発目標(SDGs)」をテーマにした漫画を募るもので、県内外から207作品の応募があったという。最終審査員は鹿児島市出身の漫画家・甲斐谷忍が務めている。
漫画を使った町おこしの中で特に高名なのが、高知県で1992年から開催されている「全国高等学校漫画選手権大会〜まんが甲子園〜」だろう。高校の漫画サークル日本一を決める一大イベントとなっている。地域振興の一環で開催が始まったイベントは今では海外からの参加校もあり、大手出版社も注目する規模に成長している。
漫画家やアニメーターと交流できる場が増える
コロナ騒動の収束に伴い、休止していたイベントが相次いで復活している。今年は漫画関連のイベントも続々復活しそうだ。今後は東京のコミックマーケットなどの大規模なイベントはもちろんだが、地域密着型の小規模なイベントも盛んになりそうである。
その要因のひとつとして、地方に住む漫画家が増加しつつあることが挙げられる。漫画家は一昔前なら、デビューが決まると上京してアパートなどを借り、連載を行うスタイルだったが、近年はデジタル機器の発達に伴い、地方に住みながら仕事ができるようになった。
漫画家がYouTubeに出演したり、イベントで積極的に顔出しをするようになった昨今、地方在住の漫画家と地域住民が触れ合う機会は、確実に増えていくはずである。
以前にリアルサウンドブックで取材した少女漫画家のあまねあいは、佐賀県唐津市で生活し、子育てをしながら漫画を描いている。2月26日には、あまねあいが講師となり、佐賀県内の鹿島市民図書館でワークショップが開催された。佐賀県庁で知事と対談した記事を見た地元の人が企画し、開催に結びついたそうだ。こうした距離感の近さは地方ならではといえる。
ワークショップを盛んに行っているのが、秋田県横手市にある「横手市増田まんが美術館」だ。毎週の土・日曜日には「アシスタント体験」「ペン入れ体験」「カラー現行体験」など、漫画制作のプロセスを体験できるワークショップを実施している。同館は日本でも数少ない漫画の原画を収蔵する施設として有名だが、次世代の漫画家を育成を図る取り組みも注目される。
熊本県の高森町内には、原哲夫や北条司の漫画作品で知られるコアミックスが漫画家の育成を目指して整備した寮がある。漫画家志望者を受け入れる体制ができており、なかには高森町の地域おこし協力隊員として広報活動に従事する人もいるという。熊本県は尾田栄一郎を筆頭に日本を代表する漫画家を多数輩出しているが、コアミックスの取り組みが地元にさらなる刺激を与えるか、注目に値する。
漫画の技術の底上げにもつながる
地方在住の漫画家が、地域住民、特に子どもたちと触れ合う場が増加したり、子供たちに向けたワークショップが実施されることは重要である。子どもの関心が高まり、漫画を描く子どもが増えれば増えるほど、技術の底上げに繋がる。やがては業界の活性化にも結び付くためだ。
地方都市にアニメのスタジオが進出する例も目立つ。つむぎ秋田アニメLab(秋田県秋田市)や、P.A.WORKS(富山県南砺市)のように本社を置く例や、ufotable(徳島県徳島市)のように拠点を構える例も目立つ。地方でアニメや漫画文化が盛り上がれば、こうしたスタジオに地元から就職する人材が生まれ、地域経済にとっても好循環が生まれることだろう。
長引いたコロナ騒動は日本社会に深刻な影響をもたらしたが、地方に住みながらにして創作が行える環境が整いつつあるのは大きな変化といえる。今後の地方発の漫画・アニメ文化に注目していきたい。