ビルを破壊して飛び出す少女のバトル漫画、一見上手だがプロが添削すると? 迫力を出すポイントは“奥行き”にあり

 各種アプリやウェブサービスの普及により“掲載”の場がほぼ無制限に広がり、多くの作家が世の中に漫画を届けることができるようになった昨今。当然「人気作家」への道は変わらず険しいものだが、SNSでオリジナルの漫画を発表して人気を獲得し、商業連載につなげたヒット作も続々と登場している。同時に、その道のプロである編集者の目線を通さない「独学」ゆえの悩みを抱えたクリエイターが少なくない状況だ。

 そんななか、YouTubeチャンネルで視聴者から創作漫画を募って「添削」を行い、人気を博しているのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏だ。解説のわかりやすさ・的確さとともに、相談者の個性を生かすためのアドバイスが心地よく、自分では絵を描かない人も楽しく視聴することができる。動画でイラストや漫画の添削を行うクリエイターは少なくないが、なかでも視聴者からの信頼が厚く、チャンネル登録者数は15万人を超える。

 そんなハイド氏による最近の添削動画に、「バトル漫画」をテーマにしたものがある。「【漫画添削66】バトル漫画が格段にうま見えするコツ〜プロ漫画家が教えます〜」と題された動画で、漫画家を目指すクリエイターの参考になることはもちろん、王道の少年漫画が好きな読者の目が鍛えられそうな内容だ。

【漫画添削66】バトル漫画が格段にうま見えするコツ〜プロ漫画家が教えます〜

 今回取り上げられたのは、“ガチ”で漫画に取り組んでおり、「迫力が出る構図を教えてほしい」という、「ただいま奮闘中。」さんの作品。「絵柄の印象が今の時代にも合っているか」ということが気になっているそうだ。ビルを破壊して飛び出してきた、ハンマーを持った少女が巨大生物に立ち向かう……という1シーンで、“ガチ”という言葉通り、素人目にはとても上手な作画に見える。ハイド氏も「いいところがいっぱいあります!」と語り、「かわいい女の子と激しいアクションのギャップがいい」と絶賛。1コマ目と2コマ目が同じく高層ビル群を捉えたカメラアングルで、時間と物質の変化を見せる演出も「止め絵で表現するマンガならでは」と評価した。

 その上で、いつものように自らネームを引き直し、改善点を解説していくハイド氏。詳しくは実際に動画を見ていただきたいところだが、圧倒的に迫力のある描写になっていることに驚かされる。見比べると、元の作品はどのコマも丁寧に描かれているが、「少女がビルを破壊して飛び出してくる」という見せゴマが立体感に欠ける。「キャラクターがシールで貼り付けられているように見える」と指摘し、ハイド氏は少女のポーズにも遠近感を持たせ、背景とうまく馴染ませていた。加えて表情のアップも添えており、見せゴマが華やかになっている。

 立体感が迫力につながる。ハイド氏は、特に男性読者は「立体感」や「奥行き」という3Dのイメージを非常に大切に見ており、ページの向こうに広がる大きな世界に“燃える”のだという。実際に直されたネームは、破壊されたビルだけでなく、周りのビル群も描写することでよりドラマチックに、より迫力のある漫画に仕上がっている。

 なんとなく改善点はありそうだと思っていても、アートにおいてはなかなか言語化できないもの。プロだからこそ実演を交えて明確に伝えられるポイントがあり、それを惜しげもなく動画化していることに頭が下がる。漫画家を目指すクリエイターはもちろん、プロ漫画家の技術や視点に関心がある人は、ぜひチャンネルをチェックしてみよう。

■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=f0hhLbhvcTw

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