『わたしはあなたの涙になりたい』から『リコリス・リコイル』まで……2022年のライトノベル、次代を担う作品まとめ

2022年ラノベ注目作を総括

 電撃文庫やガガガ文庫といった王道まっしぐらのライトノベルレーベルから、富士見L文庫、集英社オレンジ文庫といったライト文芸系のレーベル、そしてソフトカバーのノベルズなどを含めて「ライトノベル」としてくくった時、1年間に発売される本の数は数百冊といったレベルを超えてしまう。Rakutenブックスのランキングに常連として並ぶ作品なら、内容もしっかりしていてどれであってもお薦めだが、そこにはなかなか出てこない、新人によるコンテスト受賞作や活躍中の作家による新シリーズから2022年の注目作をピックアップ。次代のベスト作品&作家候補として並べてみた。

 小学館ライトノベル大賞で5年ぶりに大賞作品が出た。四季大賀『わたしはあなたの涙になりたい』(ガガガ文庫)は、心が強くかき乱されるストーリーによって『このライトオンベルがすごい!2023』(宝島社)の文庫部門で3位に入る人気を集めた。総合新作部門では堂々の1位。主人公の三枝八雲には、小学生にして世界のピアノコンクールで好成績をあげていた五十嵐揺月という幼なじみがいたが、東日本を襲った大震災を契機に揺月は海外へと留学。八雲は心を病んで閉じこもってしまう。

 そんな八雲に力を与えたのが、交通事故で脚を切断する重傷を負いながらも野球を続け、甲子園出場を果たした親友。立ち直った八雲は揺月が出場したショパンコンクールを観に海外へと出向くが、そこで揺月を襲った悲劇を目の当たりにする。絶望的な状況でも何かを拠り所にして生きていく力をくれる物語。7月に実写映画が公開されてヒットした一条岬『今夜、世界からこの恋が消えても』(メディアワークス文庫)にも重なる、感涙をもたらしてくれる作品として注目だ。

 こちらは12年ぶりとなるスニーカー大賞の大賞受賞作。すめらぎひよこ『我が焔炎にひれ伏せ世界 ep.1 魔王城、燃やしてみた』(角川スニーカー文庫)は、魔王討伐のために異世界へと召喚された5人の少女たちがいずれもくせ者揃いで、正義のために行動しても問題を起こしまくるというギャップが面白い。ジンという少女は実は暗殺者で、手にした刀で敵の首をポンポンと跳ねていくし、機械生命体のプロトも巨大な戦鎚を軽々と振り回して地面に大穴を開ける。発火能力を持つホムラはオドオドとして異世界になじめていないが、その潜在能力は厖大らしく、彼女が覚醒して魔王城を燃やし尽くすような存在にエスカーレトしていく展開で、大いに楽しませてくれそうだ。

 「このラノ2023」の総合新作部門で2位の東崎惟子『竜殺しのブリュンヒルド』(電撃文庫)も、第28回電撃小説大賞で銀賞となったデビュー作。世界を脅かす竜を倒す力を持ったジークフリート家に生まれながら、竜が住む島に置き去りにされた少女は竜に育てられて互いを深く理解し合う。そんな関係も少女がジークフリート家に奪還され、竜殺しを継いで終わったかに見えたが、少女は心に深い思いを抱いていた。種族を超えた情愛の在処を感じさせてくれるダークファンタジーだ。

 ダークさが虚ろな笑いを誘う作品が、第18回MF文庫Jライトノベル新人賞で優秀賞を獲得した鵜飼有志『死亡遊戯で飯を食う。』(MF文庫J)。いわゆるデスゲームものと呼ばれるジャンルの作品で、少女たちがゲームに挑み、生き残って賞金を得ようとして奮闘し、時に戦って殺し合うエピソードが繰り広げられる。時にというのは、ゲームには館からの脱出というものもあって、メイド姿で目覚めた少女たちがトラップをかいくぐりながら出口を目指すエピソードもあるからだ。

 ヒロインの幽鬼はそんな死の遊戯を20回以上生き残って、タイトル通りに飯を食ってきた。中には親の借金を返すとか、一攫千金を狙うといった理由で参加している少女もいるが、連勝したいという理由で命を賭け、勝つために命を奪う幽鬼のヒロイン像は挑戦的。続編も2023年1月に刊行予定で、ゾクッとする読後感をまだまだ味わえそう。TVアニメ化は不向きでも、『バトルロワイヤル』のような実写化ならあるいは。

 新シリーズとして期待したい作品では、ハヤカワSFコンテスト出身ながらメイド好きを公言し、テレビ番組にも出た柴田勝家による『メイド喫茶探偵黒苺フガシの事件簿』(星海社FICTIONS)がある。秋葉原でメイドといえば最近は、メイド喫茶が勢力拡大のために殺し合うアニメが話題になっているが、こちらのメイド喫茶はいたって普通。それでもときおり起こる殺人事件に、メイドの探偵が挑んでメイド喫茶なりメイドならではの理由を見つけて真相を暴く。作者のメイド愛にあふれたミステリーだ。

 『PSYCO-PASS サイコパス』シリーズで脚本を手掛けている深見真の『二世界物語 世界最強の暗殺者と現代の高校生が入れ替わったら』(KADOKAWA)も新シリーズ。虐められている日本の男子と、異世界で凄腕の暗殺者として恐れられている男の魂が入れ替わってしまうというW転移ストーリー。いじめられっ子の肉体に入った暗殺者は貧弱な体を鍛え上げて反撃を画策。暗殺者に入った男子は必死に仕事をこなす中で自信をつけていく。新海誠監督の『君の名は。』から思いついたにしては殺伐とした雰囲気が深見真といったところ。続きを期待したい。

 『黎明国花伝 星読の姉妹』(富士見L文庫)で第3回富士見ラノベ文芸大賞審査員特別賞、『流転の貴妃』(集英社オレンジ文庫)で2019年ノベル大賞佳作受賞を獲得した喜咲冬子は書き手として注目したい1人。上下巻で刊行の『竜愛づる騎士の誓約』(集英社オレンジ文庫)は、竜と戦う聖騎士には血筋の関係でなれないため、王を補佐する騎士になりたいと願っていた少女が主人公。その念願かなって王女に引き立てられるものの、裏にはドロドロとした相続争いがあり、領主たちと王家との間の確執があって少女の運命を翻弄する。忠臣物や百合物に見せて誘って権力のおぞましさを見せつけられる作品だ。

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