連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2022年5月のベスト国内ミステリ小説

2022年5月のベスト国内ミステリ小説

藤田香織の一冊:加納朋子『空をこえて七星のかなた』(集英社)

 めっちゃいい話じゃないか! と、胸がギュンとなって夢中で読み返してしまった。収められている7話は読み心地が良いものばかりではない。むしろ人の悪意や愚かさ、嫌らしさやずる賢さを突き付けられるようなエピソードも多く、いやほんと人生ってままならなんよな、親もクラスメイトも選べないしね、とため息吐きまくりなのに、5話目あたりから、おお? となって、うぬぅぅおぉぉー! と静かな興奮が込み上げてくる。星とか宇宙とか人の絆とか、そっち系のいい話、嫌いなんだよなぁと思う人にこそ読んで欲しい。超えて来るから絶対!

杉江松恋の一冊:辻真先『馬鹿みたいな話! 昭和36年のミステリ』(東京創元社)

 戦後昭和三部作のおそらくは完結篇。作者は草創期のテレビ番組制作に携わった経験があり、その知見が盛り込まれていて業界小説としても楽しい。当時の番組はすべて生放送だったが、制作者たちは視聴者を驚かせるためにさまざまな工夫を凝らしていた。作中に出てくる技巧はおそらくすべて作者が現場で試したもので、カメラ切り替わりを使ったトリックなど、それだけでミステリを書けそうである。本題は密室状態の放映スタジオ内における殺人事件で、こちらもアイデアがたっぷり盛り込まれている。これで辻さん卒寿なんだから参るよなあ。

 重なった作品は一つだけで、また元のあまり気が合わない六人に戻りました。それだけ多彩な作品が刊行されたということでもありますね。ベテランから新鋭までさまざまな顔ぶれとなりました。次回はどうなりますことか。

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