『罪の声』塩田武士が放つ、新たな社会派ミステリー 時代の構造を浮き彫りにする『朱色の化身』
そして第二部になると、第一部と同じくインタビューが続く一方で、大路の人生もクローズアップされる。新聞記者を辞めた後、飛ばしサイトやビジネスサイトでニュースを扱っていたが、やり方に納得できずフリーになった大路。ジャーナリズムは基本的に「公の利益」を求めるが、今の時代は「個の尊重」も求められている。その狭間で迷いを感じていたが、珠緒を捜すインタビューの旅により、自らの進むべき方向を見つける。本書は珠緒の人生の話であると同時に、大路の人生の話でもあるのだ。
いや、それどころか、大路にインタビューを受けるたくさんの人たちの人生の話にもなっている。作者は短い枚数で、珠緒とかかわった人々の人生とキャラクターを、鮮やかに切り出してみせるのだ。ここも本書の読みどころだろう。
さらにミステリーの面白さも見逃せない。主人公が関係者を当たることで、ある人物の真の肖像が浮かび上がってくる。このようなスタイルのミステリーを〝巡礼形式〟という。アンドリュー・ガーブの『ヒルダよ眠れ』が有名だ。本書は、その巡礼形式の最新の成果といっていい。インタビューを重ねる大路は、しだいに珠緒が何かから逃げていることに気づく。その真相は読んでのお楽しみ。序章ラストの光景の意味も判明し、祖母・母・娘の三代に拡大されたストーリーが、静かな感動を呼ぶ。ある程度の年齢の人なら、本を閉じた後、自分の人生を振り返りたくなるだろう。これはそういう作品なのだ。