『推し、燃ゆ』の宇佐見りんが描く、家族の独特な距離感ーー新作『くるまの娘』を読む

宇佐見りん『くるまの娘』を読む

 どうすれば、この旅は終わるのか?

 2020年発表の『推し、燃ゆ』が第164回芥川賞を受賞し、50万部を超えるベストセラーとなった宇佐見りん。彼女の受賞後第1作となる本書『くるまの娘』は、距離感の独特なロードノベルとも家族小説とも言える作品である。

 父方の祖母が亡くなり、葬儀のために群馬県の片品村へ家族と車で向かう17歳の高校生・かんこ。車中には、家族全員揃ってはいない。結婚して栃木に住む兄、遠くの高校へ通うため母方の祖父母と暮らすようになった弟は、別行動で目的地へ向かう。乗っているのは父と母と娘のかんこ、3人だけだった。

 母は妙にはしゃいでいるように見える。家に泊まりたいと兄に電話で甘えるも断られ、かつて家族旅行の時にいつもしていた車中泊を提案されて大いに乗り気となる。兄夫婦が向かった丸沼高原に付いて行き、そこでロープウェイに乗りたいなどと言い出したりもする。どうやら今回の旅を、家族の絆を取り戻すきっかけとしたいらしい。それを静観する父。猫背でおとなしそうな人だが、一旦感情が爆発すると手が付けられない。家族に暴力を振るい、残酷な言葉を投げかける。母は母で、2年前に患った脳梗塞の後遺症に悩むようになると、酒に依存し、感情の起伏が激しくなっていた。兄も弟も彼らとの同居が嫌になり、家を離れてしまったのだった。

 車の中や家族で行ったことのある遊園地で、諍いを起こす父と母。せっかく合流したのに、ますます心の離れていく兄と弟。かんこも両親と距離を置けばいいのに、と思うのだが……。

 デビュー作『かか』の、母を妊娠したいと願う少女。前作『推し、燃ゆ』の、人となりも作品もまるごと解釈して、推しのアイドルに精神的に近づこうとするオタク。そんな過去2作の登場人物を掛け合わせたような性格を持つ、本書の主人公・かんこ。彼女は独特の距離感で家族と接していた。

 両親はかんこにとって、〈親であり子ども〉だった。だから、放り出すことなどできなかった。そう思うようになったきっかけは、中学受験の合格発表の場でのこと。合格したかんこを抱きしめ、泣いて喜ぶ父と母。〈かんこが、本気で親を守らなければと感じたのは、そのときがはじめてだったと思う。(略)かんこはそれまで、抱きしめられると心強く感じるものだとばかり思っていた。だが、抱きしめられる力は、強いほど心もとない〉。

 かんこの家族は皆、互いにうまく距離を取れずにいる。相手を傷つけてもそのことに気づかず、誰かが感情を爆発させても「かんしゃく」で片付けたり、正面から向き合おうとしない。しばらくすると何事も無かったかのように旅を、家族を、続けていく。そのうんざりするような繰り返しの中でも、かんこは自分と家族の関係性について考え続け、両親と離れられないという思いを強固にしていく。



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