宇佐見りん『推し、燃ゆ』が文芸書として8年ぶり首位に 2021年上半期ベストセラーランキング
トーハンが2021年上半期ベストセラーランキングを発表した。そこから見えることをいくつか拾っていきたい。
文芸が強かった?
芥川賞を受賞した宇佐見りん『推し、燃ゆ』が8年前(2013年上半期)の村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』以来、久々に文芸書としてベストセラーの第1位となった。
加藤シゲアキ『オルタネート』や、韓国文学・エッセイ本がK-POPアイドルの「○○が読んだ」という惹句とともにヒットしたことと並べて、コロナでアイドルには近づけなくなってしまったが「アイドルと文学」の距離は近づいたのかもしれない。
2020年以来、巣ごもりの影響でマンガ市場の伸びが顕著なことは既報の通りだが(ただし今回のランキングではコミック部門の発表はない)、総合ランキングの並びを見ると例年より小説がやや多いように見受けられる。ただベストセラーに入る顔ぶれは人気作家の新作や著名な賞の受賞作、テレビや映画へクロスメディア展開したものなどがこれまた例年以上に目立つ気がする。
人が家にいることが増えたことで、文芸に限らずこれまでよりもテレビで取り上げた本が売れる傾向が強まった(とくにかつてであれば会社で過ごしていたであろう夕方やゴールデンタイムに取り上げた本が動く)という声を聞くが、売上強者がますます強くなったのは、在宅時間増加によってマスメディアの力を強まった結果だろうか。
あるいは、先行き不透明な不安の裏返しで「外したくない」と安全パイを選んでいるのかもしれない。
「話し方」本人気はリモートワークやマスク着用が背景か?
ビジネス書ランキングを見ると『人は話し方が9割』が1位、『よけいなひと言を好かれるセリフ変える言いかえ図鑑』が3位と話し方本がトップになった。
コミュニケーションに関する本は従来から定番だが、ここに来て改めて「話し方」にフォーカスが当たったのは、リモートワークが進んだり、職場でのマスク着用が必須になったりしたことで、以前よりも場の空気や表情を読む・演出することが難しくなり、言葉自体が大事になったことが背景にあるのではないかと思われる。