『神様のバレー』はなぜ異色なのか? 「弱小校の成り上がり物語」を超えた充実感

『神様のバレー』はなぜ異色なのか?

 数あるスポーツの中でも、バレーボールはかなり漫画向きなのではないか。まず、ネットをはさんでコートが分かれていて、2チームが入り混じらないので位置が把握しやすい。コートに入れるのは1チーム6人というのも、メンバーの役割を理解するのにほどよく、またコートの中の人間関係にも感情移入しやすいのだ。リアルの世界においても、昔も今も男子バレーの国際試合に詰めかける女性ファンが絶えないのは、そうした「ドラマ性の読み取りやすさ」が関係しているのではないかと思うのだ。

主人公は「敏腕アナリスト」

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『ハイキュー!!(45)』

 男子バレー漫画でいえば、近年では2020年に連載終了した『ハイキュー!!』(古舘春一)がダントツのヒット作である。これに続く人気作は『ハリガネサービス』(完結)、現在も連載中の続編『ハリガネサービスACE』(荒達哉)だろうか。いずれも高校バレーものである。

 ここで紹介する『神様のバレー』(原作:渡辺ツルヤ/作画:西崎泰正)は、やや異色のバレー漫画といえよう。舞台が中学バレーである上に、主人公は彼らを指導する「敏腕アナリスト」。相手チームの情報収集や分析を行い、試合中にも監督に戦略のアドバイスを行う、現代バレーには欠かせない存在だ。

 阿月総一は、実業団バレーボールチーム「日村化成ガンマンズ」のアナリスト。「バレーの神様」を自称する自信家で、世界の舞台で活躍する野望を持っている。「万年1回戦敗退の男子バレー部を全国制覇させることができたら、全日本男子の監督の座を約束する」との誘い文句に乗って、阿月は私立中学・幸大学園中のコーチに就任するのである。

 阿月の最初の仕事は、負けが当たり前の選手たちの意識を変えることだ。言葉で操るのではなく、しかるべき体験を与えることで選手たちに「勝ちたい」という気持ちを根づかせる。遊びを取り入れ、だからこそ続けられるトレーニングで身体能力をアップする。

 とはいえ短期間で能力が劇的に変貌するわけではなくーーいや、むしろそうしたリアリティこそが本作の魅力。阿月は選手たちの心身の性格を鋭く見抜き、現在の能力を最大限に発揮できるように試合の絵を描く。タイミングを見計らって応援団に後押しさせたり、補欠の下級生たちにアナリスト術を学ばせるなど、全方位的に人材を活用。緊張しきった選手たちを一瞬でリラックスさせるなど、心理コントロール術も鮮やか極まりない! 

 そんな阿月の軸は「相手への嫌がらせ」。ネガティブな言葉のようだが、勝負の世界ではズル賢さがモノを言う。試合前からの仕込みで相手チームをワナにかけたり、ときには味方をだますことも。阿月イズムをしだいに理解していく選手たちは、指示を聞くだけではなく「自分の頭で考えて判断する」能力を身につけていく。

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