『作りたい女と食べたい女』の連載を追うべき理由 今この時だから描ける表現とは?

『作りたい女と食べたい女』の連載を追うべき理由

 昨年12月には「このマンガがすごい! 2022」〈オンナ編〉第2位に選出され、単行本最新刊2巻の発売前重版が決定。発行部数は累計20万部に到達したという『作りたい女と食べたい女』(ゆざきさかおみ/KADOKAWA)。タイトルの通り、「食」を鍵に働く単身女性ふたりが少しずつ距離を縮めていく「シスターフッド×ご飯×GL」(作品キャッチコピー)である。

 「Comic Walker」での連載はこの1月で1周年を迎えた。もともと作者が2020年3月にTwitterやpixivの個人アカウントで発表しはじめて大きな注目を集め(「いいね」30万以上)、改めて商業作品としてスタートしたという経緯がある。「ネットの話題作」が大きなステージでより幅広い層の読者に届き、ぐんぐん成長中なのだ。

日常のひとときがいっそう輝いて見える

 料理をするのが好きで、SNSの趣味アカウントに完成写真をアップするのも楽しんでいるけれど、ひとり暮らしで少食ということもあり、作ってみたい料理が作れないことが悩みの野本さん。そんな彼女のアパートの隣の隣の部屋には、大量のご飯を軽々とたいらげるガタイのいい女性・春日さんが住んでいた。ひょんなことから春日さんの豪快な食べっぷりを知った野本さんが、ある日、思い切って夕ご飯のおすそ分けを申し出たことから、ふたりは折々に食事を共にし、お互いを知っていくことになる。

 義務として「作らなければいけない」食事の準備は時に苦痛だが、気持ちに余裕があって料理が好きな場合、それはちょっとした達成感や喜びが得られる楽しい営みだ。そして、食べたくても自分ひとり分だけ作るのはなにかと面倒な、大量に作った方がおいしい料理というものは、確かにある。

 なので、野本さんが春日さんと出会ってお近づきになりたいと願うのはよくわかるし、物語の出発点として目のつけどころが鋭い。さらに、現在もなおCOVID-19の感染流行が収まることなく、誰かといっしょに食卓を囲むことが、生活を共にする相手や特別に親密な相手がいる人(そのうえ良い関係を保てている人)に限られた特権的な体験となってしまっている状況も、結果的にこの作品に描かれたふたりの時間の尊さを際立たせている。いっしょに食べる喜びを発見し、噛み締め、新しい自分を知る。そんな日常のひとときがいっそう輝いて見えるのだ。

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