【今月の一冊】直木賞受賞作からノンフィクション超大作まで、各出版社の「年間ベスト作品」を紹介

今月の一冊:各出版社の年間ベスト作品は?

『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬(早川書房)

 新人の鮮烈なデビュー作が、読書界に旋風を巻き起こしている。第11回アガサ・クリスティー賞大賞を受賞した逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)は、史上初めて全選考委員が満点をつけた作品で、刊行直後から話題が沸騰。本作はその後、第166回直木賞候補作にも選ばれ、さらなる注目を集めている。

  独ソ戦が激化する1942年。モスクワ近郊の農村で暮らす少女セラフィマは、ドイツ軍に母を含む村人たちを虐殺され、復讐を誓う。狙撃訓練学校の教官長を務めるイリーナのもと、セラフィマは女性だけの狙撃小隊の精鋭となるべく仲間とともに厳しい訓練を受け、やがて戦場の最前線でおびただしい数の敵兵を手にかけていくが――。

  圧倒的な熱量と新人離れした筆致で展開される、史実とフィクションを織り交ぜた女性たちの戦争の物語。本作は戦場の極限状態を描くなかで、ホモソーシャルな軍隊の有様や、女性への性暴行をも問い直す。“女性を守るために戦う“という行動原理を掲げるセラフィマが、最後にたどり着く敵の姿は示唆的だ。セラフィマにとって師匠であり、母の死を冒涜した復讐相手でもあるイリーナとの関係や、さまざまな信念のもとで戦う狙撃手たちとの絆など、女性同士の連帯も本作の大きな魅力のひとつ。凄まじい新鋭による傑作小説である。(嵯峨景子)

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