生田斗真は“劇的バリトンボイス”の持ち主だ! 『パンダより恋が苦手な私たち』のイケメンぶりを考察

生田斗真の“バリトンボイス”がオペラ的?
生田斗真の声域がバリトンだと思ったことは一度もないが、放送中の主演ドラマ『パンダより恋が苦手な私たち』(日本テレビ系)で彼が演じる、動物行動学の権威・椎堂司准教授の声域はバリトンとして設定されている。バリトンは、男声部の中音域に位置する。基本的にその上がテノールで下がバス。バリトンとバスの違いはやや曖昧ではあるものの、どちらかといえば生田斗真はテノールではないか?
何にせよ、瀬那和章による原作小説には椎堂が「よく通るバリトン」と明記されている。しかもプロローグで。読者が椎堂に関して最初に得られる情報なのだ。原作がいうのだから間違いない。それに本人は違う声域だとしても、俳優なら指定された声域に合わせられるもの。というわけで、本作の生田斗真は正真正銘、“バリトンボイス”の持ち主ということになる。
ただし、彼が持ち前のバリトンボイスの最大効果を発揮するのは「解説」している時に限る。動物行動学の視点から(人間の)恋愛コラムの監修を担当することになった椎堂は、編集者・柴田一葉(上白石萌歌)を相手に毎回、動物の求愛行動について力説する。あまりの熱弁ぶりに、一葉の前には話題になる動物が出現。映画館の4DX体験すら超えた、超立体的な講義が繰り広げられる。白熱する口調は劇的でもあり、椎堂の独壇場はもはやオペラ的といっていい。
原作プロローグの二行を強烈に具現化
声楽やオペラにおけるバリトンは、劇的な表現に適している。具体的なオペラ作品だとたとえば、19世紀最大の作曲家ジュゼッペ・ヴェルディの『リゴレット』など。タイトルロールはバリトン歌手にとって代表的なレパートリーであり、ヴェルディは劇的なバリトンを主役に据える革命的存在だった。とはいえ、ヴェルディのオペラはあまりに勇猛な悲劇であるため、劇的なバリトンという点では同じでも、コミカルな椎堂司役とはかけはなれている。劇的でもありコミカルなバリトン役といえば、ヴェルディより前のロッシーニが作曲した『セビリャの理髪師』のフィガロ役が、椎堂と近似値になるだろう。
フィガロの元気溌剌アリア「わたしは街の何でも屋」(オペラに詳しくない人でも聴いたことがあるはず!)は、ひたすら陽気な早口バリトンで歌う。まさに白熱解説中の椎堂の名調子を思わせる。しかもバリトンのフィガロが時折うわずったような高音に転じる瞬間は、人間の恋愛には一切興味がない椎堂が「くだらぁ~ん」や「しらぁ~ん」とコミカルに発する高音域への上昇と符号する。つまり、本作の生田斗真は、華やかな高音域も守備範囲という、実に頼もしい気丈夫なバリトンボイスの持ち主なのだ。
本作主題歌「スーパーロマンス」は芸能活動30周年を迎えた生田の歌手デビューを飾るナンバーだが、こちらはきらきらして華やかな美丈夫のテノールが聴こえる。美丈夫といえば、「よく通るバリトン」と書かれた原作プロローグの次行には「視界に入るたびに息を止めてしまいそうなイケメン」と明記されている。エキセントリックな人物であることは確かだが、椎堂は圧倒的イケメンでもあったのか…。
平成イケメンドラマの金字塔『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(フジテレビ系、2007)で、錚々たるイケメン軍団のリーダー格を担った生田が、約20年の時を経て令和ドラマでも超絶イケメンキャラを演じることは感慨深い。『パンダより恋が苦手な私たち』第3話では、一葉が姉を連れて椎堂の研究室を訪ねる場面で、第5話では椎堂と一葉が水族館デートをする場面で、周囲から「イケメン」だともてはやされる。これも原作の指定に従っている。劇的バリトンボイスの持ち主であり、超絶イケメンキャラの動物行動学の権威でもあるという、原作プロローグ二行に明記された設定を、生田斗真が強烈に具現化しているのだ。






















