【今月の一冊】直木賞受賞作からノンフィクション超大作まで、各出版社の「年間ベスト作品」を紹介
『死にたがりの君に贈る物語』綾崎隼(ポプラ社)
登録者数約27万人というTikTokクリエイターのけんご。“目利きの本読み”として知られる彼が、2021年に読んで面白いと思った小説を決める、第1回「けんご大賞」の受賞作が先ごろ発表された(特別賞を含め全11作)。そこで「ベストオブけんご大賞」に輝いたのが、綾崎隼の『死にたがりの君に贈る物語』である。
『死にたがりの君に贈る物語』は、「ミマサカリオリ」という人気作家の謎めいた“死”をめぐる青春ミステリだ。「けんごが選んだ」という他は、余計な情報のないまま読み進めていったが、なんとも心に響く一作だった。文字数の関係もあるが、ここでその内容を詳しく紹介するつもりはない。
ただひとつ言えることは、この小説には、ミステリとしての謎解きの面白さに加え、人はなぜ物語を求めるのか、という著者の根源的な問いと答えが書かれている。身のうちに沸き起こる何かを書かずにはいられない者だけが、真の意味での作家になれるのだろう。しかし読む者がいない物語は不幸だ。それは別に1人でもいい。逆に言えば、1人でもその物語を必要としてくれる人がいるのなら、作品は、作家は、この世に生まれた価値がある。そういう考えを持った作家が書いた物語だけが、信じられるのだと私は思う。(島田一志)