漫画ライターが選ぶ「2021年コミックBEST10」若林理央編 漫画表現のさらなる可能性を感じた1年

「2021年コミックBEST10」若林理央編

幅広い分野の漫画を描く「連パパ」作者の新作『あだち勉物語』

『あだち勉物語 ~あだち充を漫画家にした男~』ありま猛、監修:あだち充(小学館)

 コメディタッチでギャンブル依存を描いた90年代の隠れた名作『連ちゃんパパ』。インターネット公開により話題になったのは去年のことだが、実はありま猛は心あたたまる作品も多数発表している漫画家だ。『歓迎たけや旅館』(リイド社)や『きっといつかは幸福寺』(秋田書店)など、画力と物語性、どちらをとってもスキルがずば抜けていて読み応えがある。

 今年、巨匠・あだち充の兄でもある漫画家・あだち勉を主人公にした実録青春物語『あだち勉物語 ~あだち充を漫画家にした男~』がありま猛によって発表された。

 ありま猛が10代で漫画家を目指していた頃、師匠になったのが、今は亡きあだち勉なのだ。本作はあだち充も監修に入っている。

 作品からは「あだち勉」というひとりの人物への深い洞察力が感じ取れる。あだち勉を取り巻く漫画家や編集者も個性豊かに描かれ、ありま猛の才能にも驚かされる作品だ。

暗い世の中でも漫画には可能性が満ちていた

 自分が感銘を受けた今年の漫画を振り返ると、2021年は以前から他作品で評価を得ている漫画家が、新しい切り口の作品を発表し、漫画の可能性を切り開いてくれた年でもあったと感じた。

 「漫画の表現はどこまでがOKでどこからがアウトか」ということが叫ばれて久しいが、個人的な意見としては、漫画家たちには漫画という表現媒体を介して「表現の自由」を私たち読者に感じさせてほしい。きっとそこから、漫画界の新たな流れも生まれるはずだ。

 2022年も、自分の価値観を変えてくれるような、多種多様な漫画が誕生することを心待ちにしている。

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