65歳の女性が映画作りに挑戦 『海が走るエンドロール』が描く、創作という海への船出

『海が走るエンドロール』の画期性

 「このマンガがすごい!2022」オンナ編の1位を飾った『海が走るエンドロール』。本作は映画という共通項によって出会った大学生から影響を受け、65歳の女性が創作活動の世界に足を踏み入れる姿を描いた作品だ。

 これまでになかった作品として注目を集める一方、要素を抽出すると人気作と共通する部分もある。還暦を迎えた女性が映画作りに挑む本作における「すごい」点とは何なのだろうか。

年齢差のある関係と創作に伴う悩み

 娘が家庭をもち、夫の四十九日も過ぎた65歳の女性「茅野うみ子」。彼女が出会ったのは美術大学で映像制作を専攻する男子大学生「濱内海(カイ)」。1巻ではうみ子が海との出会いから美術大学への進学、そして映像制作の世界へ踏み出す様子が描かれる。

 本作ならではの“色”を生み出している要素として、還暦を迎えたうみ子と大学生である海の関係に焦点を当てながら物語が進む点が挙げられる。年齢にも、立場や環境にも隔たりのあるふたりがお互いに影響を与えながら、創作活動や自分自身と向き合う姿は読むものの心を熱くさせる。

 もっとも、年齢が大きく離れた人物の関係を描いた作品としては、「このマンガがすごい!2019」オンナ編の1位に選ばれた作品であり、ひとり暮らしをする75歳の女性「雪」とBL(ボーイズラブ)作品が好きなことを隠す女子高生「うらら」の関係を描いた『メタモルフォーゼの縁側』も挙げられる。世代を超えた友情、というのは小説や映画においても見られるモチーフだ。

 それでは、本作に感じる新鮮さは、登場人物の歳の差でなく創作活動の描き方にあるのだろうか。例えば、海との出会いによって自分は「映画を作りたい側」の人間であることに気がついたうみ子が、創作活動に伴う悩みを抱く姿は胸を打つ。ただ、表現することの難しさや、クリエイターが直面する悩みをうまく描いた作品としては、「マンガ大賞2020」に選ばれ、アニメ化も話題になっている『ブルーピリオド』が挙げられ、「このマンガがすごい!2022」オトコ編1位に選ばれた『ルックバック』においても、漫画家の喜びと苦悩が瑞々しく表現されている。

 年齢差のある意外な人間関係も、創作者の苦悩を上手く描いている点も、本作の大きな魅力だ。しかし、多くの漫画読みを唸らせる「すごさ」の源泉は、海や航海というメタファーを巧みに織り交ぜた、作者の表現力にあると感じる。

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