史上もっとも汚い言葉で書かれた小説? ロシア文学の沼へ誘う『ヌマヌマ』

ロシア文学の沼へようこそ『ヌマヌマ』

 雄大な山脈をバックに草原を仲良く歩く、熊とマトリョーシカ。本書『ヌマヌマ はまったら抜けだせない現代ロシア小説傑作選』は、ロシアという国に対して、そんな表紙のイラストにあるようなふんわりとしたイメージしかない人でも大歓迎。読めば「好き」ともどこか違う感情に導かれながら、現代ロシア文学の沼にはまること間違いなしの一冊だ。

 収録されているのは、1980年代末から現代ロシア文学を紹介してきた「ヌマヌマ」こと沼野充義と沼野恭子翻訳による、選りすぐりの小説12篇。冒頭を飾るニーナ・サドゥール「空のかなたの坊や」は、人類初の有人宇宙飛行に成功した宇宙飛行士ガガーリンの母である〈私〉が主人公となる。

 宇宙へ行って〈神様なんてどこにもいない〉と悟った息子は、地球に戻ると自暴自棄となり、最高指導者ブレジネフの顔に唾を吐きかけて行方知れずとなった。それ以来、〈私〉はアパートで一人暮らし。宇宙のこと、地球のこと、〈地球の中心、地球の心臓部、マグマの深奥〉のことについて、ひたすら考え続けた。そして考えに考えた結果、〈私〉はアパートの住人たちにこう宣言する。〈よく聞いて!みんな準備をするのよ!地中に降ります!〉。地中に一体何があり、どうやって行くというのか?

 ヴィクトル・エロフェーエフ「馬鹿と暮らして」もまた、ロシアの超有名人が出てくる摩訶不思議な話である。タイトルにある馬鹿とは、なんとソ連の初代最高指導者レーニンのこと。解説によると旧ソ連時代の1980年に書かれたが出版できるはずもなく、1991年になりやっと発表されたという。

 文学者の〈私〉は何か罪を犯したらしく、刑罰として馬鹿と暮らさなければならなくなる。どの馬鹿にするかは選択が可能。地下室に100人ほどいる馬鹿の中から〈私〉の選んだのが、あご髭と鼻の下にちょび髭を生やした、見た目は明らかにレーニンの「レーちゃん」だった。〈えい!〉としか言葉を発しないレーちゃんは、冷蔵庫に入っている食料を貪り食い、床板や家具をナイフで切り刻み、オナラをする。〈私〉は家を荒らされて困り果て、妻は〈よくもまあ、あんなのを選ぶなんて〉と呆れ、夫婦仲はギクシャクする。

 ところがある出来事を境に、レーちゃんは突然大人しくなる。すると〈私〉も妻も愛着を抱くようになり、それぞれがレーちゃんと一線を超えた仲に。家庭内で生まれた奇妙な三角関係は夫婦のモラルを崩壊させ、とんでもない惨劇を引き起こすことになる。



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