『怪獣8号』『怪獣自衛隊』……怪獣漫画がいま読まれる理由は? 恐怖や不安の象徴としての“怪獣”を考察

『怪獣8号』『怪獣自衛隊』が読まれる理由

 いま、怪獣漫画が熱い。諫山創の『進撃の巨人』や、清水栄一×下口智裕の『ULTRAMAN』などが水面下でその“流れ”を作っていたのかもしれないが、なんといっても、「少年ジャンプ+」で現在連載中の『怪獣8号』の勢いが止まらない。6月に発売されたコミックス第3巻のオビによれば、同作の累計発行部数はすでに250万部を突破しており、この数字は、近年立て続けにヒット作を生み出している「少年ジャンプ+」発のコミックスの中でも最速の記録だという。

 松本直也の『怪獣8号』は、日常的に怪獣に襲われている“怪獣大国”日本が舞台の物語だ。主人公は、日比野カフカという32歳の男性。怪獣専門の清掃業者(怪獣の死体を処理する専門の業者)として、それなりに日々の仕事をそつなくこなしているのだが、そんな彼には諦め切れない夢があった。

 それは、幼い頃に怪獣に破壊された街を見ながら、ある少女と誓った、将来は防衛隊に入って、「二人で怪獣を全滅させよう」という夢だ。防衛隊とはもちろん、怪獣を討伐するための組織にほかならないが、なんとカフカの幼なじみの少女はいま、27歳という若さでそこの第3部隊隊長を務めている。

 それに引き換え自分は……そんなカフカが市川レノという若い友人に触発され、また、人にはいえないある「力」を偶然(?)手に入れてしまい、再び夢に向かって走り出す――というのが、この物語の序盤の展開である。

 少年漫画の主人公の年齢が32歳ということについては、少々違和感をおぼえる向きもおられるかもしれないが、そもそも「ジャンプ」系の漫画は大人の男性を主役にした作品が少なくないし(例えは古いが、『CITY HUNTER』や『Dr.スランプ』、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』などの主人公を思い浮べていただきたい)、現在大ブレイク中の『東京卍リベンジャーズ』(和久井健)の主人公にしても(こちらは「少年マガジン」連載作)、精神上は「26歳のフリーター」という設定であり、従来の少年漫画の想定読者の年齢よりは比較的高めである(余談だが、『東京卍リベンジャーズ』と『怪獣8号』には、「大人の男性のリベンジ物」という共通点もある)。

※以下、ネタバレあり

 ちなみにタイトルでもある「怪獣8号」とは、防衛隊の討伐対象になっている謎の怪獣のコードネームであり、その正体は、実は日比野カフカである。そう――先ほど「ある『力』」をカフカは手に入れたと書いたが、彼は、突然現れた小型の怪獣を飲み込んでしまい、それ以来、髑髏のような顔をした人型の怪獣に変身する身体になって(されて?)しまったのだ。

 ちなみにカフカが手に入れた怪獣の力は壮絶なものであり(何しろ、人間サイズでありながら、建物よりもでかい大型の怪獣を一撃で吹き飛ばすほどのパワーを秘めている)、最初はそれを制御できていなかったが、徐々に使いこなせるようになっている。

 また、何よりも痛快なのは、カフカがその正体を隠したまま防衛隊に「候補生」として入隊し(やがて正隊員に昇格する)、仲間や市民を守るため、ここぞという場面では怪獣に変身して、悪しき怪獣に立ち向かっていく姿だろう(こうした主人公の「毒をもって毒を制す」という力の原理は『デビルマン』を、正体を隠しながら怪獣と戦わなければならないという“縛り”は「ウルトラ」シリーズを踏襲しているといっていいだろう)。

 なお、カフカの同期の隊員は(前述のレノ以外は)いずれも若きエリートばかりであるが、そんな孤高の天才たちが、30過ぎの「オッサン」のがんばりを見て、ひとつにまとまっていく。実は現時点でカフカの正体を知っている隊員も何人かいるのだが、彼らはこの、怪獣の力を持った漢(おとこ)の中にある正義の心を信じて、(いまのところは)上司や仲間たちには黙っている。

 同作には、もちろん、出てくる怪獣たちの造形の新しさや、「怪獣専門の清掃業」というファンタジーとリアリズムが絶妙な形で入り交じった職業の設定の妙もあるのだが(実際、カフカが前の職場で培った知識が、たびたび仲間の危機を救うことになる)、やはり見るべきところはこの、「怪獣」という未曾有の脅威を前にして、本来はバラバラである人たちがひとつになっていく姿――そして、夢をいったん諦めかけていた漢が再び本気になっていく姿にあるのではないだろうか。

骨太な作品『怪獣自衛隊』

 そしてもうひとつ。いま、『怪獣8号』にハマっている漫画ファンにお薦めしたい作品がある。

 それは、「月刊コミックバンチ」で連載されている井上淳哉の『怪獣自衛隊』だ。こちらの作品は、リアルな中にも良い意味でのケレン味が散りばめられている『怪獣8号』とは違い、徹頭徹尾リアリズムのおもしろさにこだわった骨太な作品だといえよう。

 主人公は、防人(さきもり)このえという防衛大学校を卒業したばかりの自衛官。春休みに彼女は、祖母とクルーズ船での旅を楽しんでいたのだが、突然、人間を捕食する謎の巨大生物(=怪獣)に襲われてしまう。

 このえには、かつて自分を救ってくれたある自衛官のようになりたいという夢があり、その想いを原動力にして、同じ船に乗っていた名前も知らない人々を命がけで守るのだった。先ほど、『怪獣8号』という漫画の見どころは、日比野カフカという30過ぎの「オッサン」ががんばる姿を見て、天才たちがひとつになっていく様子だと書いたが、この『怪獣自衛隊』にも、似たような展開が用意されている。

 いや、似てはいるのだが、こちらの作品で描かれているのは、選ばれた天才たちの姿というわけではない。そう、作中に出てくる誰もが、飛び抜けた力を持っているわけでもない「普通の人々」なのだ。自衛官の卵であるこのえはもちろん、“もうひとりの主人公”ともいうべき海上自衛隊の大和令和もまた、本来は「ヒーロー漫画の主人公」になれるような人間ではない。

 そんな彼らが、極限状態において、未知の怪獣から誰かを守るために、あるいは亡くなった親友のために、自分の限界を超えた「力」を発揮する。だからこそ、その姿を見た周りの人々も他者のことを考えられるようになり、結果的に心をひとつにすることができるのだ。ここでもまた、「怪獣」という脅威を前にして、組織や人種、国境を超えて人々がまとまっていく様子が描かれている(ちなみにタイトルの「怪獣自衛隊」とは、のちにこのえが配属されることになる「防衛省特殊災害対策室(TaPs=タップス)」の俗称である)。



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