『怪獣8号』異例の“中年ヒーロー”で人気作に 戦う大人のカッコ良さを描く意義とは?

『怪獣8号』おっさんのカッコ良さ

 読者と同じ世代である、中学生や高校生などが主人公の作品が主流の「少年漫画」。そんな少年漫画界の代表とも言える「週刊少年ジャンプ」のアプリケーション「少年ジャンプ+」に、夢を半ばで諦めた「おっさん」を主人公とする異色の人気作がある。それが松本直也作、怪獣大国日本を舞台としたファンタジーバトル作品『怪獣8号』(集英社)だ。夢と活力に溢れた若者ではなく、一見して、くたびれた中年をヒーローとして描いた本作。リアルサウンドでも幾度となく本作については論評してきたが、この“おっさん=ヒーロー”の図式も、本作が読者に提示した大切なテーマだと感じる。

 怪獣と人間の戦いと共に、中年主人公の数奇な人生を描く本作。現代で「おっさん」と言えば失礼な話、何かと煙たがられてしまう存在のように思う。世の中に「お父さんと一緒に洗濯しないでよ」なんてセリフも定着して久しいが、その状況は家族間に限ったことではない。しかし『怪獣8号』はその“おっさん”を主人公に据え、周囲から奇異の目を向けられながらも努力する姿を描き続けた。

 物語開始当初、主人公である日比野カフカは、怪獣専門の死体清掃会社に務めていた。誰にも褒められない裏方として従事していた彼は、防衛隊第3部隊隊長の亜白ミナを物憂げな表情で見つめる。小学生の頃、怪獣の被害によって家を失ったカフカは、幼馴染みと共に防衛隊員となる約束をした。そして彼女と「どちらが強い防衛隊員になるか勝負だ」と話すカフカ。その幼馴染みこそ第3部隊の英雄である亜白ミナだった。

『怪獣8号(2)』

 いつの間にか開いてしまった差を目の当たりにし、情けない言葉を口にしては今の生活で満足だと言い聞かせるカフカ。挙げ句の果てには防衛隊志望で一回り以上年下のアルバイト、市川レノにバカにされてしまう始末である。それでもカフカは、ヘラヘラと「お前も歳食ったらわかるようにーー」と返す。この辺りの受け流すうまさと達観の仕方は、彼の頼りないおっさんの雰囲気を増幅させる。

 しかし根は優しく漢らしいカフカは、その後再び防衛隊隊員を目指す決意を固めた。以前の試験では体力テストの結果も悪くはなかった彼。しかし32歳を迎えたカフカの結果は、225人中219位。年下の同期からは数歩遅れをとるものの、彼は泥臭く自分の長所を活かし少しずつ夢へと歩を進め始めた。

 無論、現実の社会で32歳といえばまだまだ若手に入るが、そこは少年漫画の世界。諦念に塗れた“おっさん”として登場したカフカだが、その頑張る姿を見ていると胸が熱くなる。若者との能力差やブランクに驚愕しながら、それでも自分の長所を活かすため自分のためにも他人のためにも体を張る。様々な経験を経て現実を知るおっさんだからこそ、その姿はより輝いて見えた。

 またカフカは数奇な運命を辿るのだが、その悲運と言わざるを得ない展開にもその年齢が良い味を出している。



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