矢部太郎が語る、名作『星の王子さま』と向き合った時間 萩尾望都に言われた言葉にビックリ?

矢部太郎『星の王子さま』と向き合った時間

 主人公である「僕」と、どこか浮世離れした「大家」さんとの交流を綴ったコミックエッセイ『大家さんと僕』で手塚治虫文学賞短編賞を受賞するなど、今やお笑い界に留まらず、ベストセラー作家としても活躍する矢部太郎。

 文章とともに、人柄が伝わる温かなイラストが人気だが、新訳版が出版になったことで話題の『星の王子さま』(サン=テグジュペリ/作、加藤かおり/訳)で、そのイラストの力を発揮している。世界的な名作への取り組みに、「一歩間違えたら炎上する案件だな」と正直思ったという矢部。それでも自分で描くならと「イメージできた」という新訳版のイラスト執筆について、まっさきに描いた絵は? 黒地のイラストを描いた理由は? などじっくり聞いた。また改めて向き合って感じた『星の王子さま』の魅力や、少女漫画界の巨匠・萩尾望都、絵本作家である実の父とのエピソードも。(望月ふみ)

真っ黒な宇宙にポツンと王子さまがいるイメージだった

――世界的な名作の新訳版イラストです。オファーがあったときは?

矢部太郎(以下、矢部):すごく嬉しかったのと同時に、「こりゃ、まずいな。お引き受けして大丈夫かな」と思いました。やっぱりサン=テグジュペリさんご本人が描かれた絵のイメージがありますし、それが素晴らしくて完成しちゃってますから。それを新たにというのは、一歩間違えたら炎上する案件だなと思って(苦笑)。でももともとすごく好きな本なので、自分が絵を描くならというのを、ちょっと考えてみたら、イメージできたんです。何枚か描けたので、「こういうものでもいいですか?」と編集の方に見ていただいたら「いいですね!」と言っていただけたので。「じゃあ、やらせていただいちゃおうかな」と。葛藤がありつつ、お引き受けしちゃいました。

――最初に描いてみたというのは、どの絵ですか?

矢部:表紙とあとはバラと王子さまとか。黒い版画みたいなのがいいなと思ったんです。

――ところどころに差し込まれる黒地のページが印象的です。矢部さんが出されたアイデアだったんですね。

矢部:「黒い絵が描きたいです」とお伝えしました。編集者さんも「めくって面白い本にしたいですね」とお話していて「黒地に白抜きの文字とかもありですよ」とおっしゃっていただいたので、どんどんイメージが膨らんでいきました。

――バックが黒というのは宇宙のイメージですか?

矢部:ポツンと宇宙に王子様がいるイメージがあって。もともと、なんでオリジナルは白いんだろうと思っていたんです。

――実際に描き始めて、特に筆が乗ったのは?

矢部:バラとのところは「4コマ漫画みたいな感じでもいいんじゃないですか?」と言っていただいて、少しそんな感じで描いたんですけど、楽しくてノリすぎちゃったかも。王子さまの流れるマフラーもハートっぽい形にしたりしちゃって。やりすぎたかな(苦笑)。

――逆に時間がかかったのはどこでしょうか。

矢部:服装かな。王子さまの服装を、パジャマみたいな感じにしたんです。オリジナルよりももっと子供っぽいのがいいかなと思って。まだ学校にも行ってないくらいの幼い感じがいいかなと思いました。

いつか『星の王子さま』のような本を書きたいと思っていた

――『大家さんと僕』や新刊『ぼくのお父さん』は、ご自身の体験を文とイラストで描かれていますが、『星の王子さま』には全くご自身の文章がありません。そこに絵を描くことへの壁はありませんでしたか?

矢部:少し前に朝ドラの『スカーレット』と『おちょやん』のレコメンドで、1話1話WEBで感想を書いていたんです。本当は文章だけでよかったんですけど、勝手に絵も描いて。僕は仕事でもありますけど、好きなことについて絵を描くというのはみなさんもしてますよね。僕もそんな気持ちで。そのときすごく楽しいなと思えて、『星の王子さま』もその流れと勢いで描こうと思っちゃったかもしれないです。

――自分の文ではなくても、好きなものについて描けるから。

矢部:そうですね。それに絵を描くとなると、いっぱい見るしいっぱい考える。ドラマもどんどん好きになれた。『星の王子さま』も、もっと好きになれるんじゃないかなと思いました。

――『星の王子さま』に関しては、「いつかこんな本を書けたら」と公言されていたとか。

矢部:『大家さんと僕』を書き終わったときに、編集者さんからいただいたメールの文章の中に、「いつか矢部さんは『星の王子さま』みたいな本を書けますよ」という言葉があったんです。編集者さんの言葉ってすごく大きくて、力になるんです。そのときも最大の誉め言葉をいただいたな、本当に書けたらなと思ってました。

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