矢部太郎が語る、名作『星の王子さま』と向き合った時間 萩尾望都に言われた言葉にビックリ?
巨匠、萩尾望都からの指摘にビックリ!
――絵本作家であるお父様について描かれた『ぼくのお父さん』も出版になります。こちらも読ませていただきましたが、『星の王子さま』とどこか世界観がリンクしているようで、両方読むと、より楽しめるような気がしました。
矢部:実は萩尾望都先生と対談させていただいたんです。そのときに、『ぼくのお父さん』を読んでくださった萩尾さんに、「『星の王子さま』みたいだと思った」と言われたんですよ! すごく嬉しくて、ビックリして。萩尾さんはそのとき僕が『星の王子さま』のイラストを描くなんて知らなったはずですし、子どもの世界観とか、なんとなくそう思ったって。『ぼくのお父さん』を描くときに、頭のどこかに『星の王子さま』のことがあったのかなぁ。
――そうなんですね! さすが、萩尾先生ですね。絵本作家のお父様は、今回、『星の王子さま』のイラストを担当することについては?
矢部:相談とかはしていませんが、でも知ってました。お父さん、ネット検索とか好きなので、調べたのかも(笑)。「ポプラ社さんはいい出版社さんで、お父さんもお仕事したことあるよ」と言ってました。
――矢部さんのお父様は、王子様と出会っても、バカにされない大人のような感じがします。
矢部:そうですね。たぶん、大ヘビに食べられたゾウが見えると思います。僕は見えないかも。小さいころ「将来は絵描きになりたいです」と作文にも書いてましたが、それはお父さんの影響です。でももう少し大きくなってからは、お母さんたちが困っている姿を見て、ちゃんと勉強して大学に行こうと思うようになりました。お父さんは、「こういう人が絵描きになるんだな」とすごく感じる人で、いつでも絵を描いていて、よく警備員に連れていかれていました。スーパーのレジでレジの人を描き始めたりして(笑)。
『星の王子さま』は死がすぐ傍にあるからこそ、人にやさしくなれる
――『星の王子さま』と改めてじっくり向き合ってみて、発見はありましたか?
矢部:読み飛ばしていたところも結構あったんだなと思いました。それまでのいろんな星での話は覚えていましたが、地球に着いてからの特急列車の話とか、薬を売っている人の話とか、あまり印象に残っていませんでした。こんなシーンもあったんだ、ここも面白いなと思いました。
――好きなキャラクターを挙げるなら?
矢部:僕がずっと好きなのは“のんべえ”です。この本で一番好きな部分です。「飲むのが恥ずかしいから飲んでしまう」という。どうしようもできない感じ。僕自身はお酒は飲まないんですけど、なんだかすごくわかります。
――有名な「大切なことは、目に見えない」という言葉については。
矢部:そうですね。でもそうとも言い切れない自分もいます。目に見えるから大切なこともあるだろうとも思っちゃうんですよね。
――確かに、それもその通りだと思います。王子様に出会ったことで、飛行士は星の見え方が、キツネは麦畑の見え方が変わりますが、矢部さんにとっては、大家さんはとても大切な存在だと思います。これを見ると大家さんを思い出すといったものはありますか?
矢部:やっぱり伊勢丹ですね。新宿に行って伊勢丹の前を通って、あのマークを見ると思い出して、毎回写真に撮っています。つい思い出して毎回。伊勢丹新宿店はいつまでも残ってほしいです。
――『星の王子さま』にはどこか死に通じる部分もありますね。
矢部:死が近いところにありますよね。すぐそばにある感じがする。だから僕の絵も黒地にしたのかも。主人公の飛行機乗りにもそういう部分があるし。実は暗い本だなとも感じます。でも誰でも誰かを失ったり、身近に死を経験しながら、ずっと生き続けていると思うし、そういう思いがあるからこそ、ほかの人に対して、「わかるよ」って優しくなれると思います。その意味でも、みんなが持ってる悲しみとか、どうしようもできない気持ちが、この本にはあるなと思います。
――最後にメッセージをお願いします。
矢部:僕がこういう本が出来たらいいなと思う理想の1冊になりました。世界で2番目に素晴らしい『星の王子さま』の本になったと思います。
■書誌情報
作:サン=テグジュペリ
訳:加藤かおり
絵:矢部太郎
出版社:ポプラ社
発売日:2021年6月16日