『ワンパンマン』誰にも真似できないそのヒーロー像とは? 最強すぎる男の“満たされない心”
なぜ、強いのか
常人のトレーニングで最強を手に入れてしまったのだから、読んでいる側とすれば強い理由をどうしても考えたくなってしまう。もともと備わっていた才能が開花したのか、実はサイタマは嘘をついているのか、はたまた遺伝なのか、サイタマ自身も知らないうちに誰かから力を与えられたのか。
とにかくどんな敵でもワンパンチで撃退してしまう。これだけ闇雲に強いとなると『暗殺教室』の殺せんせーなどが思い浮かぶが、彼には強くなった理由がある。もはや「よく分からないけど強いんです」だけで押し切られると読者側も納得せざるを得ない、納得せざるを得ないと思いつつも考察してしまいたくなるのがもはや罠のような気がしてくる。
ワンパンチで終わってしまうものだから、話が続かない。どのようにして話が続くかというと、周りの弱いキャラクター(と言うと語弊がありそうだが)が懸命に戦い、ボロボロになっていく。最終的にサイタマが出てきて倒すのだ。それでもおいしいところを総取りという雰囲気にならないのが、サイタマの長所のひとつかもしれない。
強すぎるヒーローが出てこられると困る
ヒーローと言うと、弱かった者、もしくは自らの未知なる才能に気がつき、努力で研鑽を重ねて強くなり、強い敵と邂逅し、戦い、また強くなるのが定石だ。サイタマにはそれがない。すでに誰よりも強いからである。恐怖も喜びも怒りも緊張もない(サイタマ談)。
ヒーローが強すぎるため、「敵が弱いだけでは?」などという疑いまで持ってしまう。しかし、その一方で、周りのキャラクターたちの奮闘が際立ってくる。本来、主人公が奮闘するシーンをほかのキャラクターがやっているのだ。ジェノスの佇まいなど、ヒーローと聞いて想像するヒーローの姿によほど近い。
最強ヒーローで主人公であるにも関わらず、サブキャラクターのような空気を醸し出す。後にも先にもいない唯一無二のヒーロー像だろう。
■書誌情報
『ワンパンマン』1〜23巻発売中(ジャンプコミックス)
著者:村田雄介
原著:ONE
出版社:集英社