“おじさん”主人公のバトル漫画『怪獣8号』なぜブレイクした? ジャンプの必勝パターン×ミステリー群像劇の面白さ
32歳のおじさんが主人公の怪獣漫画というジャンプ漫画では異色作に見える本作だが、幅広い読者に読んでもらうために様々な工夫が施されている。この入隊試験と、その後の宿舎を舞台にした学園ドラマテイストの群像劇は、その最たるもので、『怪獣8号』はとてもポップで見やすい群像劇となっている。
一方で話を面白くしているのは、謎の人型怪獣が登場したことで、より極まっているミステリー(謎解き)のテイストだ。謎の人型怪獣は他の怪獣とは違い、人の言葉を理解し知性らしきものを有している。カフカが務めていた怪獣清掃会社の解体作業員に擬態して隊員たちを襲う彼の目的はいまだ謎に包まれている。おそらくカフカが人型怪獣に変身してしまった謎とも絡んでくると思うのだが、見えない敵と戦う心理戦の様相も見せており、巨大怪獣を隊員たちが倒す派手なアクションとは違う物語の面白さとなっている。
SFテイストのサバイバルアクションとミステリー。そしてジャンプ漫画らしい青春群像劇。まだ2巻なのに、これだけ人気があるのは、エンターテインメント作品として、面白さのバリエーションがとても豊富で、様々な観点から楽しむことができるからではないかと思う。同時に面白いのは、やはり怪獣の描き方だろう。巨大生物としての怪獣を見せる漫画ならではの描写はもちろんのこと、怪獣の存在が日常化している世界の見せ方がとても上手い。
本作の怪獣には「フォルティチュード」という独自の数値によって計測された危険度がランク付けされている。このあたりは地震のエネルギーを現すマグニチュードを連想させるものがあり、この世界では怪獣が地震や台風のような存在となっていることがよくわかる。
他にも怪獣と戦う防衛隊もいれば、怪獣の死骸を解体する清掃会社も存在するといった感じで、怪獣を中心に社会が回っていることが節々でわかる。つまり、怪獣が存在する社会をシミュレーションした漫画とも言え、派手なアクションや魅力的なキャラクターのいる世界をしっかりと下支えしている。
そして何より主人公のカフカが魅力的だと思う。年上のおじさんゆえに、若い隊員たちに体力や才能の面でコンプレックスを持つカフカが、怪獣清掃会社で培った知識と解体技術で怪獣の内部構造を把握して弱点を保科副隊長に伝える場面は新鮮で、ジャンプのバトルアクション漫画ではあまり出てこない場面である。怪獣化して戦うカフカもかっこいいが、こういう地味な活躍こそが、本作の面白さに深みを与えている。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『怪獣8号』2巻(ジャンプコミックス)
著者:松本直也
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/list/kaiju8.html